へんてこな三角関係

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 また類祥哉が京口さくら、円巴、西園寺凛華のいる教室にやってきた。
 そして、全く意味のない、さくらと類の凛華をめぐる攻防戦が繰り広げられる。
 巳はもちろん、凛華までもがうるさいこの二人を放っておくことにした。彼女は本を開く。

 ふと、さくらが「もしかして!」と大きな声を上げた。
 そして類に向かって問いかけようとした。
「犬くんってさぁ」
「……京口先輩、その犬っていうのやめてください」
「え〜、何で?」
「何でって……」
 そんなの嫌にきまってる。
 しかしさくらは嫌味でつけたわけではないらしく、本当に不思議そうに首を傾げる。
 困る類に巳から助け舟が出された。
「そんな名前、誰が付けられたって嫌に決まってんだろうが」
「えー、トモちゃん何で?」
「何でって……おまえも犬って呼ばれたら嫌だろうが」
「え!? 私って犬っぽい? 
わーい!
「いや、おまえは犬より猫っぽい……って、
何で犬と呼ばれて喜んでんだよ
「嬉しくないの? トモちゃん」
「嬉しいわけないだろ」
 凛華が本から目を離し、さくらたちのほうを向く。
「あんたたち微妙に話が進んでないわよ。とにかくさくら、犬と呼ぶのは止めなさい」
 はーいとさくらは素直に返事をする。
 最初から凛華が注意していればよかったのだ。
じゃあ、なんていう名前何にしよう?」
「……別にわざわざ名前なんて考えなくていいです。普通に呼んでください」
 類の言葉を聞かず、さくらは続ける。
「うーんと、じゃあ……ケン(犬)ちゃん
嫌です
「嫌なの? それじゃあ」
「だから、普通に類でいいです」
 さくらはやはり類の言葉など聞こえてないようで、考え込む。
「う〜ん、いぬ……けん……はらぐろ……、あっ! 腹黒! 腹黒くんは!?」
絶対嫌です
わがままな……
どこがですか!?
 類はだんだん疲れてきた。
 というか俺は凛華先輩に会いにきたのに、何で京口先輩の相手をしないといけないんだろう。
 ため息をつく類の横で、さくらは「あ!」とまた声を上げる。
 そして類に向かってにっこりと笑った。
 類は敵意ばかり向けるさくらに笑いかけられて少し驚く。
 さくらは楽しそうに口を開く。
ハグくん は!? 腹黒の「は」と「ぐ」でハグくん! かわいいでしょ!? どことなく犬っぽいし!
 よし決まり! とはしゃぐさくら。とても気に入ったようだ。
 誤解されやすいのだが、彼女は嫌味をこめて呼び名を考えるのではない。
 自分の印象に忠実に名前を考える。
 彼女のなかでは「犬」も「腹黒」も「かわいい」も「男前だね」も同等な位置にいる。
 しかし、つけられたほうはやはりたまったものではない。
「だから嫌ですってば」
「えー! 何で!? すっごくかわいいよ! ぴったりだって!」
「とにかく絶対に嫌です。俺には「類 祥哉」っていう名前があるんですから、苗字で呼んでください」
「るい しょうや? ヘンな名前
……とことん失礼な人ですね
「トモちゃんといい勝負だね」
「一緒に比べないでください」
 どういう意味だ? と巳が言った気がするが、類は聞こえなかったフリをする。
 話が進んでいるようでやはり止まったままであるので、凛華は本から目を離す。
「さくら、人にヘンな名前をつけるのは止めなさい」
 さくらは少し拗ねながらもまたはーいと返事する。
「というか京口先輩、自分が遮っといてなんですが、何か俺に訊きかけませんでしたか?」
 えっ? 何か訊こうとしたっけ? とさくらは悩み、ポンと手で打った。
「ああ、そうそう! ハムくんってさぁ……って、あだ名で呼んじゃいけないんだった。名前なんだっけ?」
「おい、さくら。ハムじゃなくてハグだぞ」
「円先輩、丁寧だけどどうでもいい訂正はいらないです。俺の名前は、類です。類 祥哉」
「ルイ……ルイくんね」
 そうです、類です。と類は頷く。
 そうか、ルイか。とさくらも頷く。
 頷き合う二人に巳は少し苛立つ。
で?
「あー、そうそう。ルイくんって凛華のこと好きなんだよね?」
「えぇ、そうですよ」
 そして類はにっこりと凛華に微笑むが彼女は無視する。

「それで、凛華はスズキくんのことが好きなんでしょ? これってもしかして
三角関係?

 あっさりさくらによって、爆弾発言が落とされた。

 みなそれぞれ驚いたが、一番最初に口を開いたのは巳だった。
「へぇ、西園寺に好きな奴がねぇ」
 その次は凛華だった。
「ち、違うわよ!」
 巳は、柄になく動揺する凛華を見て、目を細める。
「顔を赤くして否定されてもなぁ」
「円くんもへんなこと言わないで! さくら、自分の勘でおかしなことを言うのは止めて!」
「さくらの勘はよく当たるからなー。それにしても、西園寺に好きな奴がねー」
 笑う巳の首を凛華が絞める。
「円君。いい加減にしないと怒るわよ」
「いや、もう怒って……グェ。首絞めんなよ」
 そして一番最後に口を開いたのは類 祥哉だった。
「そうですか。凛華先輩に好きな人ですか。
で、そのスズキさんとは誰ですか?
 あの人、とさくらはあっさり指をさす。
 その先には勿論、鈴本健太郎がいる。
「さくら、人を指でさすのは止めろよ。つーか、西園寺の好きな奴って委員長かよ」
「だから違うって言ってるでしょ!」
 ますます顔を赤くする凛華を見て類は少し哀しそうな顔をする。
 しかしすぐ健太郎のほうを向き、そして、それはそれはとてもどす黒い微笑みを健太郎に送った。

これから、よろしくおねがいしますね


 こうして、半ば無理やりに三角関係は成立された。




「わーい! 三角関係だぁ!」
「さくら……、何でそんなに喜ぶんだよ」
「だって三角関係だよ!?」
「いや、答えになってねぇし」

 喜ぶさくらの隣で、巳はため息をついた。





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