WAITING!

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 遅い。

 ……………遅い。

 …………………………遅い!



 だあああ! 何やっとんじゃ! 竜介の野郎は!



 これで何度目の遅刻だ。デートの待ち合わせで奴が遅刻をしなかったことがあったか? いやない。つーかあるわけない。
 竜介は初デートのときでさえ、二時間も遅刻した男だ。

 あたしは気が短いほうじゃないし、むしろ長い。我慢強いほうだと思うし、待たされるのも苦にならない。
 だけど。
 だけど、このくそ寒い空の下一時間も待たされたら、そろそろ切れてもいいんじゃない?
 どうせ竜介はいまだぬくぬくと布団にもぐっているに違いない。そうに決まっている。奴の遅刻の原因はいつも寝坊だ。


 でも。
 でも、もしかしたら事故に遭ったとか……? いくら竜介でもこんな寒いところに彼女を待たせるわけない、と思う。
 だけど寝坊して、慌てて急いで、道に飛び出して車とぶつかったとか……。奴ならありうる。
 まさか、そんなことないと思うけど、でも。一応確認を……。
 そう思って携帯を取り出す。いつもだったらどうせ送っても無駄なのでいつもは送らない。だけど。
 メールを打ちこもうとボタンに手を伸ばしたとき、突然バイブが。

 竜介!?

 メールが竜介からきた。急いで開けてみると。


『寝坊した』 



 …………………。
 
 は? 寝坊した? おいこら、一言か!?
 謝りもせず、寝坊した。だと?
 そして何か? 今から行くからこのくそ寒いところで待っていると……?

 
 ふざけるなよ。


 もう知らねえ。
 あんな奴知らねえ。
 もー、怒った!
 帰る!

 スタコラ歩いて帰ろうとした。
 だけど、きっと竜介は三十分しないうちにここに来るだろう。
 朝ごはんも食べず、時には顔も洗わず(汚いっつーの)、すぐすっ飛んで来るだろう。
 ここと竜介の家はバス乗りゃすぐだっていってたからもしかしたら十分程度で来るかもしれない。
 今まで散々待ち続けてきたあたしがたかが十分も待てないと!?
 んなわけない。あたしだって意地がある。

 自分でもよくわからないほど混乱しているのがよくわかった。わかったからあたしはますますヘンな方向に進んでいく。

 そして結局、帰るのはやめにして、少し離れたところで竜介を待つことにした。
 てゆうか、竜介を待たせることにした。奴もたまには誰かに待たされればいいんだ。





 十五分後竜介は来た。
 かなり息を切らしているようだ。走ってきたらしい。
 キョロキョロと周りを見渡している。あたしは絶対見付からないよう看板の陰に隠れる。(ていうかそれ怪しくないか?
 いらない一人つっこみはさておき、竜介を観察。
 奴め、かなり慌てている。竜介があんなに慌てているなんて珍しい。
 いい気味だ。キヘヘヘと怪しい笑い声を出しながらニヤニヤと笑う自分の姿は疑問系にするまでもなく怪しかった。しかし気にしない。

 竜介は、今度は携帯を取り出した。
 何か一生懸命打ちこんでいる。
 あたしの携帯にメールが来た。

『どこだ?』

 偉そうだなあと思いながら、少し離れたとこにいる右往左往している竜介を見たら可愛らしく思えてしまった。
 メールは無視することにした。

『まさか事故に遭ってないよな?』

 事故かもしれないならメールで送るなよ、と思いながら自分もさっき同じことをしようとしたことを思い出した。
 竜介もあたしも電話は苦手。いつもメールだけ。

『もしかして、家に帰ったとか? それなら返信してくれ』

 もうウロウロせずに、携帯をじっと見ている竜介。少し可哀相になってきた。あたしがやっているんだけどね。
 しょうがない、返信してやろう。

『今、少し離れたとこにある本屋さんにいるの。今からそっち行くから待ってて』

 竜介に待っててと言う快感を覚えてしまった。癖になりそうで怖い。
 返信は、早かった。

『俺がそっち行くよ。なんていう本屋?』

 それは困る。だってあたしも今から本屋に行かなきゃいけないじゃないか。
 急いで返信。

『いい。たぶんわからないだろうから。十分ぐらいで行くよ』

 さて、まだ十分待たなければいけないのか。いい加減寒い。いや、しつこいようだけど自分のせいだけどね。
 竜介は、しゃがみこんで携帯を握り締めている。小さく丸まっている竜介。あたしよりずっと背高いのに小さく見えるなんてなんかおかしい。




 そんな竜介を見たら、何だか涙が出てきそうだった。
 あたしは無意識に竜介に近づいた。



 一歩、二歩、そしてあたしと竜介の間は十歩、九歩と近づいていってる。
 気づいてよ、竜介。


 竜介と、目が合った。


 と、思ったらいきなり竜介がタックルしてきやがった。


「ぐえっ」

 蛙がつぶされたような、かわいらしくいえばケ○ちゃんの笑い声(?)のような声が思わずでた。
 竜介はそんなあたしの奇声に気にせず、ぎゅーっと抱きしめる。
 く、苦しい……。
 睨みつけようと竜介の顔を仰ぐ。
 
 嫌がらせかと思った竜介のタックルと抱きしめは、本当に心配していたかららしい。
 見たことない顔をして竜介はずっとあたしを抱きしめ続ける。
 あたしはただ抱きしめられる。

 竜介が口を開いた。

「ごめん。俺、もう絶対遅刻しないから。もうおまえ、待たせたりしないから」

 かすれた声。いつものぶっきらぼうな声とは全く違う。

「りゅ、竜介?」

「いつも待たせてばっかりで、待つってことがこんなに怖いもんだと思わなかった。ほんとに、ごめん」

 ますます竜介の腕の力がつよくなる。
 あたしは、ただ竜介に抱きしめられた。
 竜介の腕の中はあったかかかった。




 どれくらいの時間が経っただろう。
 長いように感じたけど、意外に短かったのかもしれない。

「竜介」

 竜介の顔が見たくて、腕の中から出ようとした。
 竜介はビクッとして、あたしを解放した。
 
「竜介」

 もう一度名前を呼ぶ。
 顔をじっと見つめる。
 いつもとは全く違う顔。
 心配そうで、泣きそうで、弱弱しい。
 あたしが待たせたから。ごめんねと心の中で謝る。

「竜介。竜介が、寝坊しないで遅刻しないなんて無理だよ」
 

 あんたは三年寝太郎って言葉がぴったりだからね。
 
 竜介が傷ついたような顔をする。
 違う。傷つけたいんじゃない。

 急いで続ける。



「だから、遅刻しても許してあげる。

 あたしは、竜介が来てくれるなら、ずっと待ってる」




 今度はあたしのほうから竜介にタックルをした。


 
 思わず、後ろに倒れる竜介。当然あたしも一緒に倒れる。





 赤い顔した、竜介のおでこに、軽くキスをした。





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