同じ髪の香り

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 もう少しで始業のチャイムが鳴るな。
 そう思いながら円 巳はのんびり登校する。
 走れば間に合いそうなものも、彼にその気は全くない。
 だらだらと歩きながら校門に向かう。
 その校門に差し掛かったとき。
 何やら後ろから「遅刻しちゃうー」と声が聞こえる。

 
聞こえたと思ったら、突然タックルをかまされた。

うぉっ
 巳は転びそうになるが、踏みとどめた。
「きゃぁ」
 可愛らしい声が聞こえる。
「何なんだ」
 突然後ろからぶつかってきた奴を巳ヘ見る。

 ふわふわした栗毛色の髪に、大きな瞳。
 その瞳のある小さな顔に、小さな身体。
 凛華とはまた違ったタイプの美少女だった。

「あの、ごめんなさい……」
 小さな声で謝る少女はとても可愛らしかった。
 ほとんどの男子はこれだけで少女に惚れるに違いない。
「別に」
 巳はそう言うと、美少女をジーっと見る。
 少女は赤くなって俯く。
 巳は考えていた。

 こいつ、さくらと同じ髪のにおいがする、と。

 ほとんど変態に近い。
「だ、大丈夫でしたか?」
 顔を赤くしながら、しかも少し涙目の上目遣いで少女は訊ねる。
 巳はああ、と言いながら、訊かれてしまったのでおまえも大丈夫か?と訊いた。
「は、はい! わたしは大丈夫です!」
 と、少女は緊張しながら答えた。
 巳はそれを聞くと、踵を返し、スタスタと少女から離れていった。
 一見、昔の話なら恋が生まれてもよさそうなシチュエーション。
 あんな美少女ならば、男も一目惚れしても無理はない。
 しかし巳の少女に対する感想は、

 さくらと同じシャンプーかな。

 であった。
 結局、巴はさくらバカだった。


「円くんはいますか?」
「え? あ、ああ、円はそこで弁当食べてるけど」
 昼休み。
 巳の教室で、鈴本に円くんはいるかと訊いたのは、今朝、巳とぶつかったあの少女だった。
 彼女が教室に入っただけで、教室がどよめく。
 少女はゆっくりと、顔を赤くしながら巳に近づく。
 巳はさくらと凛華と三人で弁当を食べている。
「あの、円くん」
 巳が声に振り向く。
 少女の顔は更に赤くなる。
「何だ?」
「あの、わたし、石田 明奈といいます。円くん、わたしと付き合ってくれませんか?」
 突然の告白。
「悪いけど無理」
 そして巳の冷たきフリ言葉。
 教室中がシーンとなった。
 その中で一番最初に反応したのはさくらだった。
「何でー!? 何でトモちゃん振っちゃうの!? ありえない!」
「うるさい、さくら。おまえは黙っとけ」
 彼女とは思えない態度だが、巳には半ば予想できていた言葉なので、結構冷静だった。
「わたしじゃ、駄目なんですね」
「ああ」
 明奈はポロポロと涙を溢す。
 巳は泣いている明奈の姿を見るが、いたって冷静だ。
「京口さんが、そんなに好きですか?」
「ああ」
 そこでは巳はフと引っかかった。
「おまえ、俺とさくらが付き合っているのを知っていたのか?」
 明奈はその質問には答えず、失礼しましたと言って、去っていった。
 教室中から巳に非難の目線を送る。ついでにさくらからも。
 だが巳は気にせず、弁当の残りを食べ始めた。
 ちなみに凛華はとっくに食べ終わっており、ずっと本を読んでいた。
 弁当を食べる巳に、さくらが言った。
「信じられない! トモちゃん最低! 鬼! 悪魔!」
 火蓋をきったかのように、他のクラスメイトたちも口々に信じられないとかありえないとか言い出す。
 あまりにもうるさいので巳は怒鳴った。
うるせえ! おまえらにそんなこと言われる筋合いはねえ! 特にさくら!
 尤もである。


 円 巳が石田 明奈をフッたという噂はすぐに広まった。
 巳は、いろんなところで論難されることとなる。


「円くん!」
 呼ばれて振り向いてみれば、石田 明奈。
「円くん、この前は泣いちゃってごめんね。でもわたし、あきらめないから」
「は!?」
 意外な言葉に巳は驚く。
 あきらめない? あれだけキッパリ断ったのに。
「じゃあね、円くん。用事はそれだけから」
 そう言って少し走って明奈は立ち止まり、くるりと巳のほうを向く。
「もちろん、円くんと京口さんが付き合っているのを知ってたよ」
 そしてにっこりと微笑む。
 面倒な奴に好かれたもんだ。
 円巳はそう思った。





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