恋愛偏差値

HOME NOVEL   TOP NEXT『目に見える気持ち』




 遅くなってしまった。
 凛華は歩く足を速める。本屋で立ち読みしていたらついつい遅くなってしまった。
 買えばいいのだが、おもしろくて読むのを止められなかった。
 あたりはすっかり暗い。
 こういうときは酔っ払いに絡まれやすい。

 西園寺 凛華。
 学園一の美女といわれる彼女は、そりゃもうものすごくきれいだ。
 きれいすぎて、早々話しかけられないほどに。
 普段は遠巻きで見られるだけなことが多く、後を付けられることはあるものの、直接近づいてくる者はいない。
 だが酔っ払いとなると話は別で、理性の効かない彼らは簡単に凛華に近づく。
 凛華にとっては、当然いい迷惑だ。
 車を呼んでもらおうかと、結構お嬢様である凛華は考えたが、やはり悪いので止めた。
 急いで帰れば大丈夫だろう。
 だが、そうはいかなかった。
「君、すっごい美人だねー!」
 酔っ払いが凛華に話しかける。
 凛華は無視する。
「ほんとだ。すごい美人だ!」
 わらわらと寄ってくる酔っ払い。
 迷惑以外のなにものでもない。
「ねえ、ちょっと無視しないでよ」
 酔っ払いの一人が凛華の肩に手を掛ける。
「やめてください」
 凛華がそう睨む。
 うっとうしい。
 周りはただ見るだけで、凛華を助けようとはしない。
 凛華はますますイライラする。
 そのときだった。
「あれ? 西園寺?」
 声をするほうを見ると、そこには委員長の鈴本健太郎が立っていた。
 健太郎は少し戸惑っていたが、凛華に近づく。
「一緒に帰ろう」
 凛華の手を、酔っ払いたちから引っ張り、強引に引き寄せる。
 酔っ払いたちが何か言う前に、健太郎たちは走り出して、その場を去った。


「ありがとう、鈴本くん」
 凛華はほっと安心し、笑いながら、健太郎にお礼を言う。
 健太郎は驚いて、目を丸くする。
 凛華は不思議に思って、「どうしたの?」と訊く。
「いや、西園寺、笑うんだなって……しかも、俺の名前知っていたなんて……」
 健太郎の言葉に凛華は眉を顰める。
 こういうことを言われるのは、初めてじゃない。
 違う目≠ナ見られることを、凛華は嫌っていた。
 あたしだって、普通に笑うし、クラスメイトの名前を覚えているのだって当たり前じゃないか。
 覚えていないという人もいるけど。
 凛華はさくらと巳を思い出す。
「じゃあ、後は一人で帰れるから、本当にどうもありがとうございました」
 そう言って凛華は足早に去っていく。
「え、おい、西園寺、一人じゃ危な」
「気にしないで」
 キッパリと凛華は言い、健太郎のほうを振り返らず家へと急いだ。


 昨日は何か西園寺を怒らすようなことをしてしまっただろうか。
 健太郎は考える。
 昨日、健太郎は塾の帰り、絡まれている凛華を見た。
 むりやり西園寺をひっぱって、走らせたのが悪かったのだろうか。
 いや、と健太郎は頭を振る。
 西園寺は笑って御礼を言ってくれた。だからたぶん、自分の次の言葉が西園寺を怒らせたんだ。
 確かに失礼だったかもしれない。
 「笑うんだな」と言ったのは。
 勿論、西園寺は全く笑わない人だと思っていたわけじゃない。
 ただまさか、西園寺が自分に笑いかけてくれるとは思っていなかった。
 健太郎は、凛華の笑った顔を思い出し、朝一番で謝ろうと思った。

 教室に入ると、もう西園寺は学校に来ていて、席に座って本を読んでいた。
「西園寺」
 声をかけると、西園寺は顔を上げ「おはよう」と言った。
「あ、おはよう……」
 健太郎もそういうと、凛華はもう本に目を落としていた。
 これはもう会話終了ってことなんだろうか……。
 健太郎は悩む。
「……何か用?」
 凛華がまた顔を上げ、健太郎の顔を見る。
 健太郎は助かったと思い、「昨日はごめん」と謝った。
「昨日? 昨日はありがとうございました」
 そう言って頭を下げる凛華。
 そうじゃなくてと、健太郎は思う。
「あの、俺、昨日西園寺に失礼なこと言って……ゴメン」
「……あたしって、そんなに笑わないように見える?」
 凛華は少し視線を落としながら、健太郎に訊く。
「いや! 西園寺の笑った顔、かわいかったよ!」
 そう声を上げ、健太郎は自分の言ったことに驚く。
 凛華も少し眉を上げる。
「あ、いや、何でもない。何言ってんだろ俺……」
 健太郎の顔が赤くなる。
 凛華は何も言わない。何ともきまづい。
「そ、それから俺の名前覚えていてくれてありがとな」
「クラスメイトの名前ぐらい覚えてる」
「いや、そうじゃなくて、俺よくスズキって呼ばれるから。一発でスズモトって呼ばれること少なくて……」
 健太郎の声がどんどん小さくなっていく。
 また西園寺を怒らせるようなことを言ってしまった……。
 しかし凛華はクスリと笑った。
「あたしも最初、間違えて覚えていたの」
 照れたように笑う凛華を見て、健太郎の顔はさらに赤くなった。





HOME NOVEL    TOP  NEXT 『目に見える気持ち』



Copyright(c) 2004 all rights reserved.
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送