HOME NOVEL TOP NEXT『へんてこな3角関係』
さくらと凛華が珍しく一緒に登校する。
というか、いつも遅刻ギリギリ(または遅刻後)に学校に来るさくらが、奇跡的にもかなり余裕を持って家を出た。
下駄箱で靴を履き替え、階段を上っているとき、前に委員長である鈴本健太郎の姿が見えた。
「鈴本くん、おはよう」
凛華が健太郎にあいさつする。
さくらは首を傾げる。
「凛華の知り合い? はじめまして。京口さくらです」
「「…………………」」
二人の沈黙が重なる。
健太郎はプチショックで口が利けない。
凛華は少し間を置き、やっと口を開く。
「さくら……、いくらあんたでもそれはないでしょう。あれだけ迷惑掛けている委員長のことも覚えてないの?」
「委員長………? ああ、スズキくんか。あれ? でも今凛華、違う名前で呼んでいたような……」
間違っているのはあんたのほうよ、という凛華の言葉にさくらはまた首を傾げるが、健太郎はどっちでもいいよと乾いた声で笑う。
「ごめんね。えーと………」
「鈴本くんよ。鈴本くん、きっとさくらは慣れない早起きで寝惚けているだけだと思うから」
凛華の半ばフォローであり、半ば本気な言葉に、健太郎は曖昧に笑う。
さくらは、失礼なとでもいうように、頬をふくらませて言う。
「違うよ。寝惚けたんじゃなくて ど忘れ したんだよ」
凛華はすでにさくらを無視し、早く教室に行こうかと、困ったようにあきらめたように笑う健太郎の横に並ぶ。
凛華ひどい! とさくらも後を追う。
「…………何よ、さくら」
教室についてから椅子に座った凛華を、さくらは瞬きもせずジーっと見ている。
さくらの視線に耐え兼ねた凛華は仕方なく本から目を離し、さくらを見る。
「……凛華って……スズキくんのこと好きなの?」
「はあ!?」
思わず大きな声を上げ、立ち上がってしまった凛華。周りはみな彼女を見る。コホンと誤魔化しながら再び凛華は席に着く。
「何言ってるのよ」
「当たりでしょ」
「そんなわけないでしょ」
さくらは凛華の言葉も聞かず、ふーん、凛華はスズキくんのこと好きなのかーと言う。
「ちょっとさくら、何を言って……」
さくらは凛華の言葉など聞こえないように、健太郎をジーっと見る。
そして凛華の方に振り向き、にっこり笑う。
「うん。スズキくんなら、いいかな」
「だから何を言って」
「だって大切な凛華の好きな人だもん。お似合いでいい人じゃなきゃ嫌」
「……それで彼はあたしにお似合いでいい人だと?」
「うん!」
「その自信に溢れた根拠は一体……」
「勘!」
ちなみに凛華が健太郎のことを好きだろうと言ったのも勘。
ついでに所謂「女の勘」というやつではなく「野性の勘」と言うものだろう。
嬉しそうににこにこ笑うさくらを見て、何を言っても無駄だと凛華はため息を吐く。
そのとき、けたたましく教室のドアが開く。
「凛華先輩! 好きです! 俺と付き合ってください!」
ドアを開けた人物は、凛華の元へ走る。
凛華にはその姿が人懐っこい大型犬のように見えた。
ドアを開けた大型犬の名前は、類 祥哉(るい しょうや)という。
類 祥哉。
凛華たちより一つしたの学年で、お姉さまがたから絶大な人気を誇る。
爽やかな雰囲気、人懐っこい笑顔、敬語で愛想のよい彼は女教師までからも好かれると言われている。
古いか寒い言葉でいう「年上キラー」
それが、類 祥哉の異名。
その類 祥哉が学年一の美女と呼ばれる西園寺凛華に突然の告白。
クラス中は固まって動けなった。
そんななか、類だけが見えないしっぽを凛華に振る。
「だめですか? 凛華先輩」
「……何が?」
「え、聞こえなかったですか。俺と付き合ってください」
勿論聞こえなかったわけがない。凛華は年上キラーと呼ばれる類の笑顔にも何も動かされなったようで、いきなり付き合ってくれというわけのわからない男にため息をつく。
「お断りします」
「……駄目ですか」
しゅん、とうな垂れる類。
普通のお姉さまなら今すぐ抱きしめたい衝動に駆られるのだろうが、凛華はそんなことなかった。
「凛華先輩、じゃあお友達になってくれませんか?」
上目遣いで泣きそうな顔をし、訊ねる類。
凛華はそんな顔を見て、何だか自分が悪いことをしたような気がして「友達なら」と承諾する。
「ほんとですか!? やったぁ! 凛華先輩ありがとう!!」
類は凛華に抱きつく。
凛華はちょっとと咎めるが、類は離そうとしない。
そこに、さくらが割り込む。
「ちょっとーーーーーーー」
無理やり凛華と引き剥がされて、類は不満顔でさくらを見る。
「何するんですか、京口先輩」
「駄目」
「何がですか?」
「凛華! この 犬 は絶対駄目!」
いきなり類を犬呼ばわりするさくら。
かなり失礼だが似合っているものだから周りは結構納得する。
「さくら、いきなり犬なんて呼ぶのは失礼よ。それに何が駄目なの?」
「凛華、い…じゃなくてこの人に近づいちゃ駄目! 危険だよ!」
何を根拠にという凛華にさくらはやはり「勘!」と答える。
「……何が駄目なんですか? 京口先輩」
類に爽やかな雰囲気にどこか黒いオーラが混じる。
「ほら、凛華、この人オーラが黒い! 絶対お腹真っ黒だよ!」
「それは俺が腹黒だと言いたいんですか?」
「その通り! だから凛華絶対近づいちゃ駄目だよ!」
必死なさくらに凛華はついていけない。
類はだんだん黒く染まっていくオーラを出す。
「俺が凛華先輩と友達になろうと、京口先輩には全く関係ないと思うんですけど」
笑顔で 黙れやオーラ を出す類。普通ならばショックを受けて泣いてしまうであろうその類の態度に、さくらは当然、全然へこたれない。
「とにかく凛華! この人から逃げて!」
「うるさいですよ、京口先輩。凛華先輩、別に俺近づいちゃ駄目ってことないですよね?」
キャンキャンギャンギャンうるさい二人に凛華はまたため息をつく。
静かに本が読みたいと思う朝であった。
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