取り違えたラブレター

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「ねねねね! ラブレターもらっちゃった!」
 京口さくらが朝一番そう叫んだ。
 そうはいってももうSHRは始まっていた。
要するに遅刻。
しかし彼女はそんなこと全く気にせず親友 西園寺 凛華とさくらの彼氏 円 巳(つぶら ともえ)の許に走り、そう叫んだ。
「京口……」
 席に着け。話を中断させられた担任はそう注意しようとしたがさくらは全然気づかず話を続ける。
「すごい? すごい? すごいでしょ! 見たい!?」
 朝とは思えぬテンションでさくらは浮かれまくっている。
 そんなさくらに(さくらいわく)親友の西園寺 凛華は
別に
 ただ一言で済ませた。
「えー! 凛華冷たい! いくら自分が貰いなれてるからって! もうちょっとさ、ヤキモチとかやいてよ!
 『誰よ! あたしのさくらにラブレターなんか送った奴は!』
 とか言って!」
「別にあんたなんかいらないし」
「ヒドッ! さくら泣いちゃうわ!」
 わーん! わーん! と声を上げるさくらをウザイと思いながら凛華は彼女が持っているラブレターを見る。
 凛華の前の席に座っている存在を忘れられていたさくらの彼氏 円 巳(つぶら ともえ)はワナワナと声を震わせながら嘘泣きするさくらに訊ねる。
「で、さくら。そのラブレターは誰からもらったんだ?」
「教えない」
 巳が話しかけた途端、ぴたりとさくらは嘘泣きをやめた。
 一方巴は、怒りを止めることができなくなっていた。
 朝一番、ラブレターをもらったと喜んでいる彼女を見て、なおかつ自分の存在を無視しながら話を進めているのに苛立ちながら押さえている、彼氏の自分に「教えない」だと?

 そして怒りは爆発する。

「教えないとはなんだ! そのラブレターを見せろ! よこせ!」
「ヤダ! トモちゃんには関係ないでしょ!」
「俺は彼氏だぞ! 関係ないとはなんだ! トモちゃんって呼ぶな!
「だったら別れる! トモちゃんって呼ばせてくれないなら別れる!」
「……じゃあ、トモちゃんって呼んでいいから。別れるって言わないでくれ」
「わかった」
 さくらは勝ったと、ニコニコ笑う。
 巳は負けたと、ズーンと沈む。
 ……そうじゃなくて。
「とにかくさくら。そのラブレターをよこせ。誰だ、俺のさくらにラブレターなんか送った奴は」
「ヤダ。見せない。俺のさくらとかやめてよ。やきもちウザイ」
 ガーンと、巳はショックを受ける。
 さっきは西園寺にやきもちやいてとか言っていたくせに。

 一方西園寺はさくらの手に持ってあるラブレターを見たまま、声をかける。
「さくら、そのラブレターちょっと貸して」
「はい」
 素直にラブレターを西園寺に渡すさくら。
「オイ! 俺がよこせっていったときは渡さなかったくせに、なんだその俺と西園寺に対する態度の差は!」

 きっぱりと即答するさくらにまたもやショックを受ける。

 凛華は渡されたラブレターを見ながらさくらに訊ねた。
「さくら、あんた自分の名前言える?」
「なっ! どういう意味よ、凛華! 私がそんなにバカだと思ってるの!?」
「いいから答えなさい」
「……京口さくら」
「じゃあ、このラブレターに書いてあるあて先の名前は?」
「長瀬 容子」
は!?
 うな垂れていた巳が、顔を上げる。
 そして凛華が持っていたラブレターを取る。
 確かに書いてある。「長瀬容子さまへ」と。
「オイ。さくら、どういうことだ?」
「何が?」
「何がじゃねえ! コレどう考えてもおまえ宛のラブレターじゃねえだろ!」
「うん」
うん、じゃねえ! 何で他人宛てのラブレターをおまえがもってるんだ! というかもらったことにしてんだ!」
「だって私の下駄箱に間違えて入ってあったんだもん」
「間違えてって分かってんじゃねえか! 返して来い!」
「えー。めんどくさい。それに誰に?」
「これを長瀬に送った奴にだよ! とっとと行ってこい!」
「でも、送り出し人の名前、中にも書いてないよ」
中まで読んだのかよ!? どこまで非常識なんだおまえは!」

「ストップ。あんたたち、漫才やってる場合じゃないのよ」
「漫才なんかやってねえ!」
 そう叫ぶ巳だったが、すでにさくらと凛華は彼を無視していた。
「確かに、送った奴の名前書いてないわね。しょうがない。さくら、コレ長瀬容子のとこまで届けてきなさい」
「はーい」
 そう言ってさくらは、スタスタと凛華と巳の机を離れていく。
 途中「長瀬容子って何組?」と訊いていた。
 気がつけば一時間目はすでに始まっている。
 しかしクラス全員が嵐は去ったかのように思え、ヤレヤレと安心する。
 だが、一人。納得できないものがいた。
 さくらの彼氏 円 巳だ。
 けれどそれに気にするものはいなかった。



 (一応)なんとかラブレター騒動はおさまった。
 今回の被害者はラブレターを送った主(自分が間違えたせいだけど)、送られた長瀬容子。
 そして最もかわいそうだったのは円 巳だと思われた。
 だがしかし。
 陰が薄くて気づかれていないが、
最も不幸な人物は、
今年、京口さくら、円 巳、西園寺 凛華という、
問題児たちの担任を受け持ってしまった
教師 時任 楓(27歳・男・独身)であった。





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