時期はずれのクリスマス

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アツい……

 気づけば、私は炎天下の中、どこかにいた。
 こんなところ私は知らない。
 記憶喪失かもしれない。
 でも私の名前はわかる。京口さくらだ。
 うん。たぶん。いや、確かに。
 でも此処がどこかわからない。
 ジメジメとする。
 太陽が憎い。
 ああ。こんなときにはかき氷が食べたい。

 
と、思ったらかき氷屋があった。

かッ、かき氷………!
 私は最後の力を振り絞った。



おじちゃん、かき氷大盛り……イチゴ味……ミルクかけて……
「はいよ!」
 ラーメン屋のノリでおじちゃんはカキ氷を作る、というか氷を削りだす。
 ああ……! カキ氷……!
 出てきたカキ氷に食べつく。
 おいしい……!
「お嬢ちゃん、そんなにうまいかい? おじちゃんかき氷食べて号泣する子は初めてみたよ。嬉しいなぁ」
 おじちゃん、おいしいに決まっているじゃない!
「おいしい……おいしいよ、おじちゃん……!」
 涙を流しながらもそうおじちゃんに訴えると、隣からも同じような声が聞こえた。
「うっ、ヒック、ヒック……うまい! うまいぜかき氷!」
 おじちゃん、私の他にもカキ氷で泣く人いるじゃない、と横を見た。

 隣に座っていたのは
サンタクロースだった。

さ、サンタさん!?
 思わず叫んでしまった。
 サンタさんはカキ氷を食べながらも振り向く。
「ああ。俺はサンタだ。おまえは?」
 意外にも若いサンタさんだった。
 白髪じゃなくて髪は黒いし、ひげも生えていない。
 それでもあの赤いサンタ服を着ているので、この人はサンタさんだとすぐわかる。
「きょ、京口さくらです」
「さくらか、いい名だな」
 サンタさんはニコッと笑った。
 いい人だなと思った。


「で、サンタさんはどうしてこんなところでカキ氷を食べてるんですか?」
 こんなところってお嬢ちゃん、とおじちゃんが呟く。
 ごめん、おじちゃん。おいしいかき氷をありがとう。
「うん、ああ。やっぱりサンタがかき氷を食べていたらヘンか?」
「いえ、確かに似合ってないですけど、ヘンじゃないですよ」
 サンタさんは苦笑する。
「一度、食べてみたかったんだ、かき氷」
「へー、そうなんですか。夢が叶ってよかったですね」
「ああ」
 そう言ってサンタさんは、子どものように笑った。



「じゃあ、おじちゃんありがと」
「おいしかったです、おじちゃん」
「ああ。お嬢ちゃんもサンタさんもまた来てくれよ」
 私たちはもちろんと答えてかき氷屋を出た。
「サンタさん、もう帰られますか?」
「ああ。サンタの国に帰る」
 私は、かっこいいなあと思いつつ、少し寂しくなった。
「また逢えますよね」
「当たり前だ。プレゼントを届けに来てやる」
「本当ですか?」
「本当だ。サンタが約束する。必ずだ」
「待ってます」
「じゃあな、さくら」

 そう言ってサンタさんは去っていった。


 笑いながら、私に手を振って。








絶対待ってます!

 気づけば、ここは?
 私の名前は京口さくら。
 うん。たぶん。いや、確かに。
 そして此処は……教室。
「京口……」
 前を向けば私たちの担任 時任先生がいた。
「メリークリスマス!」
 私は先生に向かって言った。
「京口、今は七月だぞ。いやそうじゃなくて……おまえが授業中居眠りをするのはもうあきらめたが、せめてそのデカイ寝言は勘弁してくれ……」
 先生はなにやらぐったりしている。
 そんなときこそサンタさんに逢ったらきっと元気になれる。
「時任先生、メリークリスマス!」
 先生ははぁっとため息をつく。そして。
「ああ。メリークリスマス」
 と言った。

 私は何だか嬉しかった。




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