失敗した手作りのお菓子

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「凛華! トモちゃん! スズキくん! 昆布見つけたよ! 昆布入れよう!」
 京口が、どこから見つけたのか知らないが、昆布を振り回しながら、走ってこっちにやってくる。

 鈴本 健太郎は目眩がした。

 なぜわざわざ探してまで、へんなモノを入れようとするんだ。しかもよりによって昆布……。
 ついでに付け足すと、彼の苗字はスズキ(鈴木)ではなく、スズモト(鈴本)であった。
 だが彼は、そんなこと全く気にしていなかった。

 それより問題は昆布だ。

「あほか、さくら! クッキーに昆布を入れるな!」
 円が怒鳴りながら走ってやってきた京口の昆布を取り上げる。
 そうだ、今日の調理実習の品目はクッキーなのだ。
 昆布なんて全く必要ない。
 鈴本 健太郎は今日、いや今週何度目か知らないため息を吐く。

 なぜ俺はこんなにくじ運が悪いのだろう。

 また、そう実感したのは先週の家庭科の授業のことだった。
 来週は調理実習でクッキーを作ると家庭科の教師は説明する。
 そして調理実習の班決めをするためくじを引かせた。
 そこで鈴本 健太郎にとってはとんでもない結果となった。

 クッキーの調理実習 三班メンバー
   鈴本 健太郎     円 巳    西園寺 凛華    京口 さくら

 彼、鈴本 健太郎はこの結果見た瞬間固まった。
 固まって動かず、口をぼかんと開け、目を見開き、そこに呆然と立ったままとなった。
 何分経ったのかなんて知らない。何時間といわれてもおかしくない。
 信じられない。
 やっと出てきた言葉はそれだけだった。
 ありえない。
 なぜこの三人と同じ班。よりによって、よりによってこの三人
 一週間後、俺はちゃんと生きて家に帰れるのだろうか。
 鈴本 健太郎はこの心配が、大袈裟であることを心から祈った。


 そして心配していた一週間後。
 つまり現在。
 京口は、円に取り上げられた昆布を取り戻そうと彼の周りをピョンピョン跳ねていた。
 頑張れ、円。
 鈴本 健太郎は心の中で応援した。
 彼は調理実習が始まってまだ、あまり経っていないが、少しこの三人対して認識を変えていた。
 今まで、この三人全員が問題児だと思っていた。
 だがしかし、問題を起こす人間、というかトラブルメーカーは京口 さくらだけだということを知った。
 そしてその京口さくらを、その彼氏 円 巳と、親友 西園寺 凛華が止めているらしい。
 今まで三人まとめて、問題児扱いして悪かった、円、西園寺。
 鈴本 健太郎はやはり声には出さず、心の中で謝った。
 けれど彼はすぐに、二人に対して改めた認識をまた変えなくてはならなくなる。

「さくら、これ砂糖だと思う? 塩だと思う?」
 まだピョンピョン飛び跳ねていた京口だったが、西園寺が話しかけた瞬間、ピタリと止めた。
 そしてすぐさま西園寺のところに駆け寄る。
 西園寺は、砂糖とも塩とも、何も書いていない白い粉の入った容器を持っている。
 どうやらマジックで書いていたのが消えているようだ。
 京口は一瞬その容器を見、すぐに
「さあ、わかんない。
とりあえず入れてみれば?
 と言った。

 やめてくれ。

 とりあえず入れてそれが塩だったらどうするんだ。
 塩クッキーか? そんなの、絶対不味い。
「おい、ちゃんと確かめろよ。砂糖は絶対に入れるな。甘くなる」

 
塩クッキーか!?

 円、おまえは塩クッキーを望んでいるのか!?

「あれ? トモちゃん甘いもの好きって言ってなかったっけ?」
「へ!? あ、ああ、俺は、ひ、
日によって味の好みが変わるんだ
「へー、そうなんだ。おもしろい舌だねー」
 京口と円がよくわからない会話を繰り広げる。
 やはりこいつらはまともじゃなかった。
 鈴本 健太郎はそう認識せざる得なかった。


 鈴本 健太郎。
 学校一くじ運の悪い男。
 彼がさくら、巳、凛華がまともであってほしいと願う理由。
 それは鈴本 健太郎がクラス委員長であるから。
 あの三人が問題を起こすたび、委員長である彼が怒られる。
(ちなみに委員長は立候補者も推薦者もいなかったため、くじ引きで決められた)
 三人が問題を起こさないようにならないかぎり、鈴本 健太郎に平穏な日々はこないのであった。




付け足し
  • 結局、京口さくらは円巴の隙をついて昆布をクッキーの材料の入ったボールの中に入れた(その他もろもろも)
  • 鈴本健太郎が三人に口出しすることは最後までなかった(理由:この三人にこれ以上関わりたくなかったから)
  • 出来上がったクッキーは焦げたわけでないのに黒色だった
  • そのクッキーは京口さくらの純粋な好意(←余計タチが悪い)により、担任 時任 楓にプレゼントされた





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