棒読みな告白

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「さくら、俺のこと好きか?」
「トモちゃんどうしたの? 頭打った?」


「打ってない。さくら、俺のこと好きか?」
「トモちゃんどうしたの? 熱でもあるの?」


「ない。さくら、俺のこと好きか?」
「トモちゃんどうしたの? ヘンなものでも食べた?」


 おまえじゃあるまいし、食わねえよ。
 そう思いながら、俺はため息をついた。


 俺は今日、たった今、気づいた。
 さくらは俺に好きと言ったことがない。
 そりゃ俺もそんなにないが、何回かは言ったし。
 だったらさくらもお返しというか。

 お互い好きという、
 気持ちだけじゃなく、言葉での確認し合うのも必要なんじゃねえの?

 と、思ったわけだ。
 というかさくらの場合、確認し合うとかいう以前に、



 
本当に俺のことを好きかどうかもわからねえが。



 いや、そのことについては深く考えないでおこう。
 さくらも俺のこと好きということにしておくんだ。
 とにかく結局俺は、さくらに好きといって欲しいんだ。

「つーわけで、さくら、俺のこと好きと言え」
「凛華ー! トモちゃんがおかしくなっちゃったー」
 さくらはあっさり俺のことを無視し、西園寺のほうを向く。
 西園寺は何やら難しそうな本を読んでいた。
 いきなりさくらが話を振ってきたのでかなり迷惑そうだ。
 俺はさくらがもしそうしてくれたら嬉しいばかりだがな。
 この贅沢者め。と、西園寺に少しばかり僻む。
 西園寺はめんどくさそうに本から目を離す。

「円君がおかしいのなんていつものことでしょ」

 言ってくれるじゃねえか、西園寺。
 今までさくらをとられていた分、今ここでまとめて返してもいいんだぜ。
 フツフツと怒りが沸いてくる。
 一方、さくらは「そうだねー」とか言って暢気に笑ってやがる。
 おい。
 さくら、おまえは今、自分の彼氏がおかしいのはいつものことって言われたんだぞ。
 少しは怒れよ。
 そう思い、また怒りは沸いてきたが、
 最初に俺がおかしいと言い出したのはさくらだったと思い出した。
 何だか少し涙が出そうになる。

「さくら、たまには円君の言うことをきいたら? 顔に似合わずロマンチストなんだから」

 西園寺のこのたった一言で、俺の涙はぶっ飛んだ。
 これでさくらは俺のことを好きと言ってくれるに違いない!
 どんなに頼んでもさくらは俺の言うことをちっとも聞きゃしないが、西園寺が言えば、たった一言ですぐききいれる。
 納得いかない気もするが、そんなことは今はどうでもよかった。
 ついでに余計な一言もあった気がするが、それも今はどうでもいい。
 俺はさくらのほうを見る。
 さくらは渋々という顔をする。

「トモちゃんのいうことって何だっけ?」

 俺の言葉はすぐ忘れるさくらにショックを受けながらも、ここで挫けてはならぬと俺は思い切って言った。

「俺のこと好きだといえと言った」
「ふーん。じゃあスキ」

 
かるっ!
 しかも、ふーんって。
 じゃあって……。
「おまえ もうちょっと心込めて言えよ!」
「えー、無理」
「無理って何だよ! 無理って!」
 俺とさくらはしばらくこの調子で言い合っていた。
 西園寺はうるさいと迷惑そうに眉をひそめながら、本の続きは読んでいた。
 さくらはだるそうに机に顔を伏せ、
俺はそんなさくらをずっと怒鳴っていた。



 そうでもしないと顔が真っ赤になりそうだったから。
 あんなことだけで、かなり嬉しい俺は、やっぱりおかしいのかもしれない。





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