喧嘩するほどに仲が良い!?

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 四時間目の授業はサボった。
 終了を告げるチャイムが鳴ったので、俺は弁当を食いに教室に戻る。
 その途中、一人で弁当を提げたさくらとすれ違った。
 俺には全く気づいてないみたいだ。
 気づけよ。
「おい、さくら」
 呼びかけてみたものも返事はない。
 それどころか振り返りもしない。
「おい、さくら」
 追いかけてさくらの肩に手を掛ける。
 するとさくらは
ベシッ と俺の手を払いのける。
 そしてスタスタと、いやドスドスとさくらは去って行った。
 一体どうしたんだ!?
 さくらは俺のことがそんなに嫌いなのか!?
 いや、しかし、なぜ、どうして……!
「お、おい、円……」
 ショックを受け、且つ悩み苦しんでいる俺に突然誰かが話しかけた。
 
うるせえ。
「あん!? なんだよてめえ! 今俺に話しかけんな!」
 怒鳴りつけた相手の顔を見てみると、それは委員長だった。
 おそらく。
 いや、確かに、同じクラスにいる奴だと思う。
「な、なんだよ、おまえも喧嘩してるのかよ」
 喧嘩? 何のことだ?
「喧嘩って何だ? おまえもって誰か喧嘩してんのか?」
 怯えていた委員長の顔が、急にへ? とでもいうように呆けた顔になった。
 何かやつれてんな、こいつ。

 委員長から話を聞いた。
 どうやらさくらと西園寺が喧嘩したそうだ。
 ありえねえ、と思ったが、確かにさっきのさくらはいつもと様子が違った。
 しかし、さくらと西園寺が喧嘩とは、珍しいこともあるんだな。初めて見た。
「どなって悪かったよ。それから俺は別に喧嘩はしてねえぜ」
 そう言うと、委員長は少し表情を緩めた。
「いや、別にそれはいいよ。そうか、円は喧嘩してないのか……よかった。
って、よくない!
 突然声を大きくする、委員長に俺は驚く。
「よくないんだよ、円! 京口と西園寺をどうにかしてくれよ!」
 どういう意味だよと、訊こうとしたとき、ズドドドドという地響きを起こしそうな足音が聞こえてきた。
 見てみると、すごい勢いで、校長と学年主任と才野が走ってこっちにやってくる。
「京口さくらはどこじゃ! またわしのケーキを盗み食いしよったぞ、あの娘! どこにやったぁ!」
 校長はそう言い、委員長の肩をグラグラと揺さぶる。
 校長がケーキごときでそこまで怒んなよ。
「鈴本君! 君のクラスの京口君が私の大事な髪の毛を持っていってしまった! どこに行ったんだね、京口君は!?」
 そういや、学年主任の髪がない。
 素直にカツラと言え、カツラと。
「京口がワシのエロ本を全部盗っていっちまった! どういうことだ!? ワシのエロ本はどこだ!?」
 エロ本、エロ本って教師が学校で連発していいのか?
 まあ、それはどうでもいいけど、さくらもエロ本なんか盗んなよ。
 はぁっと、ため息を吐くと、委員長が必死な顔して頼んできた。
「つ、円……頼むから、京口と西園寺を、な、仲直りさせてくれ……じゃないと、もっと被害が出る……」
 三人のむさ苦しい男たちに詰め寄られている委員長が力を振り絞るというように、声を出す。
 実際に苦しそうだ。
 苦労が絶えない奴だな。
 委員長のためというわけじゃないが、さくらと西園寺が喧嘩したままだと俺も困るため、二人を仲直りさせることにした。
 さくらに俺が言ったって、何も聞きやしないだろう。
 だから俺は西園寺を説得することにし、教室に向かった。
 なぜか廊下に人がたくさんいる。
 教室を取り囲んでいるようだ。
 不思議に思い、近づいてみるといきなり人が駆け寄ってきた。
「円!」
 同じクラスの奴が俺に抱きつきそうな勢いで近づく。
 男に抱きつかれる趣味はねえ。
 離れようと後ろに下がったが、縋りつかれてしまった。

「円! 西園寺をどうにかしてくれよ! 西園寺がな、綺麗なんだけど
すっげえ怖い んだよ!
 怖いんだけど
すっげえ綺麗 なんだよ!」

 意味わかんねえよ。どっちかにしろ。
 俺は縋りついてきた男子生徒を払いのけて、教室のドアを開けた。
 居た。西園寺が。
 教室には誰もいない。ただ西園寺一人が座って、本を読んでいる。
 確かにいつもの西園寺と雰囲気が違うが、これがそんなに怖いか?
「西園寺」
 呼びかけてみるが、西園寺が少しも動かない。
 俺は進んで、西園寺の前の席に座る。
 西園寺は無表情に本を読んでいる。
 おい、その本、逆さまだぞ。
 俺は呆れつつ、西園寺の手から本を取り上げた。
「何すんのよ」
 西園寺は俺を睨みつけるが、全く怖くねえ。
「さくらと仲直りしろよ」
「円君には関係ないでしょ」
 ある。大有りだ。
「関係ある。さっきさくらに会ったとき、無視されて、手を払いのけられたんぞ」
「そんなのいつものことでしょ」
 カチンときたが、やはりいつもの西園寺と違うなと思った。
 言葉と態度に棘がある。
 こんな西園寺は珍しい。
「クラスの奴にも迷惑かけてるだろうが。全員おまえが怖くて教室に入れないんだぞ」
 西園寺は後ろを向いてドアのほうを見る。
 外にいる奴らは、西園寺が振り向いただけで、ビクッと怯える。
「だいたい何でさくらと喧嘩したんだ?」
「さくらが、あたしの本を投げた」
 それだけの説明だが何となくわかった。
 いつまでも本を読み続ける西園寺に、さくらが怒ってそれを投げたといったところだろう。
「とにかく、仲直りしろよ。本を逆さまにして読む西園寺なんて気色悪い」
「……わかった」
 西園寺は立ち上がる。
 廊下からは歓声が沸きあがる。
「円君に仲裁されるなんて屈辱だわ」
 そう言って西園寺は微笑んだ。
 うるせえ。だったら最初から喧嘩なんかするな。

 西園寺がさくらを迎えに行くと、さくらは西園寺にとびついて仲直りした。
 以来二人は更に仲良くなったようだ。
 さくらなんか西園寺から片時も離れず、俺と話そうとなんか全くしない。
 結局俺のしたことって一体何だったんだ!?





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