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1. 保健室に行きたくない理由



 ずべべっという音が豪快に響く。
 校門の前に倒れている少女が一人。その横に、つい今まで同じぐらいの高さにあった顔が地面にへばりついているのに驚いている少女の友人がいた。
「ちょ、ちょっと、朔、だ、大丈夫!? どうしたの!!?」
「……転んだ」
 朔と呼ばれた少女はゆっくりと身体を起こす。
 一応手をついたので、顔に傷はない。しかし少し右寄りに倒れたので右足を怪我してしまった。擦りむいて皮は剥げた形になっている。血がかなり出て、コンクリートにだらだらと落ちていく。
「こ、転んだって……そりゃそうね……。じゃなくて! 血が出てるじゃない! 早く! 保健室!!」
 慌てている友人に対し、朔は冷静だった。腕やスカートについたゴミを手で掃う。鞄を拾いなおす。足を捻っていないか確認する。
「保健室はいい。それより、早く行こ。遅刻しちゃうよ」
 何事もなかったように朔は歩き出す。友人は驚いて進んでいく朔の制服を引っ張る。
「何言ってるのよ! 大怪我じゃない! 保健室に行かなきゃ!」
 大怪我だなんて、大袈裟だな。朔はそう思いながら振り返る。そこには少し青くなっている友人の顔があった。朔は少し口角を上げ、「絆創膏持っているから大丈夫だよ」と言った。
「ばか! 絆創膏って言ったってちっちゃい奴でしょう! こんなに皮剥けてたらとてもじゃないけど足りないじゃない!」
 確かにそうだった。友人は慌てていてもどこかきちんと冷静なところがある。この子のすごいところだなぁ、と朔の口角が、今度は自然に上がった。
「もう! 何笑っているのよ! 早く! 保健室!」
 少し浸っていた朔は我に返る。保健室――。
「保健室はやだ」
 幼い子どものように朔は言った。そしてまた歩き出す。友人も付いていく。
「何言ってるのよ。ほら、保健室に行こ」
 朔の制服を少し引っ張る。
「保健室はヤ」
「何、子どもみたいなこと言ってるのよ。何で保健室は嫌なの?」
 朔は嫌な原因を思い出す。別に保健室自体、嫌なわけではなかった。むしろ前までは好きだった。よく転んだりぶつかったりする朔は保健室を利用することが多かった。他の生徒よりかなり多く。それほどの怪我ではない時は行かないが、彼女の場合結構大きな怪我が多かった。保健室に行ったとき、迎えてくれたのは白髪で穏やかで優しい女の先生だった。しかし……。
 朔は口を開く。


「都崎(とざき)先生がイヤ」




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