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溢れ出る涙を止めることができない。
なぜだろう。
自分が何で泣いているのかわからない。
泣きたくないと思うのに。
涙は勝手に零れ落ちる。
誰かに、この涙を止めてほしい。
朝目覚めると、涙は止まっていた。
何だ、勝手に止まるんじゃん。
案外たいしたことなかったと、思った。
私は顔を洗い、学校へ行くため制服を取り出した。
教室に入ると、犬塚くんがためらいながらも、あいさつしてきた。
「吉田、おはよう」
「おはようございました」
何故か私のあいさつは過去形となった。
沈黙が流れる。
犬塚くんが気まずそうにしている。
私も気まずい。
何か話さなくては。
そう思った瞬間には口を開いていた。
「リンゴジュース飲まない?」
思わぬ言葉に犬塚くんが驚く。
思わぬ言葉に私も驚いた。
また沈黙が流れる。
しかし次にそれを破ったのは彼のほうだった。
「い、今から?」
「ううん、放課後。あの公園で」
犬塚くんが、少し意外そうに目を開く。
だがすぐに「わかった。放課後に公園だね」と言って、自分の席にと戻っていった。
何であんなこと言ったのだろう。
私も自分の席に戻った。そして考える。
何のために、犬塚くんをさそったのだろう。
そう思いながら、前の席の子の後頭部を見たら思い出した。
私は、犬塚くんに告白したんだ。
でも、あれはホントに告白なんだろうか。
モヤモヤする。そうだスッキリしたいのだ。
私は、犬塚くんにキチンと告白して、スッキリしたいのだ。
それは、犬塚くんを利用しているようで、何だか悪い気がするけど。
このままでいいはずないのだ。
モヤモヤしたままでは、おいしいものを食べても、素直にうまいと感じられないのだから。
帰りのSHRが終わった。今日掃除はない。
早く、公園に行かはなくては。
私は、学校の犬塚くんは苦手なのだ。何となく。
さっさと学校を出ようと、急いで私は教室を出た。
学校の校門を出たところで誰かに呼び止められた。
犬塚くんだ。
前にもこんなことがあったような気がする。
そう思って、ぼんやりと、昨日のことだと思い出した。
「吉田、一緒に行かないのか?」
「……あ、そうだね。一緒に行けばいいね」
思いつかなかった。へんな話だけど。
何だか、私が一緒にリンゴジュースを飲む犬塚くんは、あの公園でぼんやり待っているような気がしていた。
結局公園に着くまで、二人は何も話さなかった。
公園の自動販売機で、二人はリンゴジュースを買った。
そして、ベンチへと向かった。
前と同じように、いつものように二人は並んでベンチに腰を下ろす。
そして同時に飲みだした。
二人とも何故か一気飲みだった。
結構きつい。
リンゴジュースを全て、飲み干してしまった。
隣を見ると、犬塚くんも、もうないのかと缶を横に振っている。
二人はリンゴジュースを飲み終えた。
私は立ち上がる。
「じゃあ、ばいばい、犬塚くん」
「えっ、吉田もう帰るの!?」
「うん。リンゴジュースもうなくなったし」
そのまま歩き出そうとしたら、突然腕を掴まれた。
「吉田、座ってて。俺、リンゴジュース買ってくる」
そう言って、犬塚くんは走り去っていった。
前にも彼が走り去る後姿を見たような気がする。
私はまたベンチに座った。
そういえば私、リンゴジュース飲むだけじゃなくて、告白するんだった。
と、今更ながら思い出す。
忘れていた。リンゴジュースを飲むのに夢中で。
情けなくなってため息をつく。
走って近づいてくる足音が聞こえる。
顔を上げればやはり犬塚くん。
だが驚いた。
彼の手には手一杯のリンゴジュース。
ちょっと数えてみることにした。
「ごめん。財布に千円しか残ってなかったから八本しか買えなかった」
数え終わる前に答えを言われてしまい、少しショックだった。
彼はリンゴジュースをベンチにガタゴトと置いて、自分もそこに座る。
私と犬塚くんの間には大量の、正確に言えば八本のリンゴジュース。
奇妙な光景な気がする。
しかし気にしないことにした。
お金は、と訊くと、いいよと彼は言った。
どうしようかと思ったが、無理に返すのもあれなので、今度また返すことにした。
だけどスッキリしても、また今度は来るのだろうか。
私は、告白をしにきたのだ。
「私は、犬塚くんが好きです」
思い出した瞬間には、告白していた。
犬塚くんは、本日二本目のリンゴジュースを吹きだした。
もったいない、と思いながら私は咳き込む犬塚くんの背中をさする。
前にもこんなことがあったような気がする。
「よ、吉田、それは冗談なのか?」
「……怒るよ」
「ごめん」
彼は下を向く。
もしかしたらあのありんこがいるかもしれない。
だけど私は空を見上げた。
いつか見た空だ。
「吉田」
「なに?」
「何で俺が好きなの?」
「何でって?」
犬塚くんは、たぶん二本目であるはずのリンゴジュースの缶を見つめる。
「だって俺、男のくせにリンゴジュース好きだし」
そんなの関係ない。
「しかもそれ吹きだしちゃうし」
おあいこというやつだ。
「財布に千円しか入ってないし」
それで目一杯のリンゴジュースを買ってくるあなたは素敵だ。
「それに俺、吉田なんかって、言った」
…………。
「気にしてないよ」
「ホントに?」
「少しだけ、してる」
今日、何度目かの沈黙が流れる。
私は、下を向いてあのありんこを探した。いない。
何だか哀しくなってきた。
「俺、やっぱり吉田に好かれるような男じゃないよ」
そんなこと、言わないで欲しい。
「私は、犬塚くんが好きだ」
「好きじゃない」
「好きだ」
「嘘だ」
「ホントだ」
「怒るよ」
「私だって怒る」
泣きそうになるからもうやめて欲しい。
「私、帰るね」
「リンゴジュース、まだある」
そうだけど。そう言おうと思って犬塚くんの顔を見た。
また、泣きそうな顔をしていた。
今日は何だか、前にあったことがよく起こる。
「犬塚くん、泣きそうなの?」
喋って、私の中にとても冷静な面と、とても慌てている面があることに気づいた。
「そんなわけ、ないだろ」
他にも、いろんな感情が湧き上がる。
「泣いてもいいよ」
いろんな感情が渦巻き、弾く。
「泣くわけないだろ、男なのに」
「男なのにとかそういうの気にするの、あほみたいだよ」
どうか私、壊れないで。
「あほって……」
そう言った途端、犬塚くんは泣き出した。
「ほら、泣きたいんなら泣けばいいじゃん」
「うるさい」
そう言いながら、歯を食いしばってるようだけど、全く涙は止まらない。
「泣いたほうがスッキリするって。スッキリしないと、楽しいときとか嬉しいときとか素直に笑えないよ」
「何だよ、素直にって」
「犬塚くんは、ばか素直に顔に出るから」
「ばかとかあほとか言うな」
「ごめん」
頭を撫でたら、あのときのように彼はスナオに泣いてくれるだろうか。
触れようかどうしようか迷った。
迷った瞬間。
私は走り出していた。
そして、公園を抜け出す。
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