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3. キスと少年


 朔が都崎を見るのはこれで二回目だった。
 前よりも眉が寄っているように見え、かなり不機嫌そうだ。
 何で朝っぱらから不機嫌なんだと朔は心の中で叫ぶ。
「おい。何ボーっとしてるんだ。どうした?」
 これ以上にないぐらい不機嫌な顔に似合う、不機嫌な声が聞こえる。
「何でもありません」
 朔はそういって、後ずさる。はっきり言って、怖い。そのまま去ろうとした朔の腕を都崎が掴んだ。
「何でもないって、怪我してんじゃねえか。さっさと入れ」
 都崎は強引に朔を引っ張る。朔は驚きながらも保健室に土足で上がるわけにもいかず靴を脱いだ。
 入ると、前とあまりかわっていない保健室があった。友人が言ったとおり生徒は誰もいない。久しぶりだなあと周りを見渡していると、離されていなかった腕に力が入った。
「おい。何ボケッとしてるんだ。そこに座れ」
 朔は都崎の手を振りほどきながら言われた場所に座った。掴まれた場所が痛かった。
 何て奴だと思い、朔は眉をしかめながら、今の保険医を見る。都崎はしゃがんで朔の右足の消毒を始めた。
「いたっ」
 消毒液が足に沁みる。当然沁みる痛さを体験するのは一度や二度ではない。むしろ慣れている朔だが、突然だと声に出てしまう。
「それぐらい我慢しろ」
 都崎は消毒を済まし、ガーゼを当てる。その上から包帯を巻く。
 確かにきれいに手当てするな。朔は都崎のつむじを見ながらそう思った。手当てされることも自分で手当てすることも経験豊富な彼女ならではの言葉だった。

 ……っていうか、人のつむじ見るとそこを押したくならない?

 朔は誰にというわけでもなく尋ねた。実際自分がつむじを押したくてうずうずしている。もしつむじを押したら、都崎の不機嫌な面はどのように変わるのだろう。もっと眉間にしわがよるのだろうか。それとも目を見開いて驚くのだろうか。
 なんて考えて朔は首を振る。そんなことするわけないじゃん、ていうか怖くて出来ないし。
 ふははとでも笑おうかと相変わらずそこにあるつむじを見ていた朔に、都崎が。


 そうだ、都崎がいけないのだ。


 都崎が、突然顔を上げる。終わったと、声をかける。

 朔と都崎の顔は意外と近かった。

 ずっと都崎のつむじが見たくて、都崎を見ていた朔は、都崎と目が合う。

 それだけのことにものすごくびっくりする朔。急いで顔をそらそうと、都崎の顔と離れようと、顔をあげる。

 勢いよく上げすぎて、朔は後頭部を後ろの壁にぶつける。

 予期せぬ痛み。

 驚く都崎。

 朔は自然と前へ倒れた。一緒に椅子がひっくり返る。

 朔が倒れこんでくる。更に驚く都崎。


 そして。




 そして ――――― 重なり合った唇 ―――――。





 それを見ていた男子生徒の姿があった。




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