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4. 美少女の言葉


 正確にいうと床だが、地面にへばりついたのは本日二度目である。
 何で私は、こんなに地面にキスせなあかんのやと、朔は中途半端な関西弁で怒りを表す。
 キス…………キス?
 キスってなんだっけ? ああ、キスって唇が触れるとか、どうとかこうとか、まあ、そういうわけで……うん。
 そうか、私って、地面に愛されてるのね……。朔はすぐそこにある床を見つめる。と……。
「おい」
 これまた本日二度目。言葉が降ってきた。同じ声。同じ言葉。同じ奴からだ。
「おい。大丈夫か」
 おそるおそる上を見る。思ったとおりの顔があった。
 さらさらな黒髪。今は少し乱れている。
 切れ長なつり目。目つきが悪いとそう感じた。しかし。
 きれいだと思った。
 うん。まあ、今なら女子生徒が騒ぐわけがわかるなと思った。
「てめ、聞いてるのか。大丈夫かと言ってるんだ」
 声のトーンが下がった。そういえば私喋ってなかったっけ、と今更ながら朔は気づいた。
「あ、はい。大丈夫です」
 朔はゆっくりと起き上がる。頭は打っていない。手首も足首もくじいていない。無傷だ。
 椅子から落ちたというのに……さすが転び慣れているな。
 朔は妙なところで自分を褒めた。
「そうか。手当てはすんだ。もう授業は始まっている。教室に戻れ」
 都崎が立ち上がる。
 授業……ああ、そうか。すっかり忘れていた。一時間目は確か体育だった、と朔は思い出す。
「はい。ありがとうございました」
 朔は頭を下げ、靴のところへ戻ろうとした。
 と、ドアのところに少年が一人。
 見覚えがある。朔はそう感じた。
 少年はにっこりと朔に微笑む。
 男とわかっていながら、美少女だなあ、と失礼な感想を朔は持った。
 その美少女は微笑みながら、ゆっくりと口を開く。



「いいのかな。教師と生徒がキスなんかして」





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