BACK TOP NEXT


0. 何とかする前



 何とかする前にまた、宮下に話しかけられてしまった。

「朔、今日一緒に帰らない?」
 またもや静まる教室。やめて欲しい。
「ごめん。今日恵利と帰るから」
「恵利? ああ、花山さん?」
 そう言って彼は恵利のほうを向く。
「花山さん。今日朔と二人で帰りたいんだけど、駄目かな?」
 少し困ったように、哀しそうに訊く宮下。
 朔から彼の顔は見えないが、クラス全員の表情から容易に想像できる。
 頼むから、断ってくれ。
 そう友人に願い、祈ったが無意味だった。
「いや全然! どうぞどうぞ、一緒に帰ってください!」
 そう言って友人は朔を宮下のほうに突き出した。
 そこまでするんかい! と友人を恨みながら、朔は宮下のほうへと向かうことになった。
「ありがとう、花山さん。じゃあ一緒に帰ろうか、朔」
 そう言って朔の腕を掴む宮下。

 そして突然走り出した。

「は!? ちょっと待って宮下君! 突然なんで走り……」
 出すの? とまで訊けなかった。
 朔が途中でこけたからだ。
「わっ。朔大丈夫?」
 大丈夫、と朔はうなる。
 廊下でこけたため、血は出ていない。しかし打撲とこすれて火傷した。
 はっきり言って痛い。
 しかしそんなことはどうでもよかった。
「朔、ごめん」
「いや、別に大丈夫。それよりなんで走るの?」
 そう訊くと宮下は変色しだす朔の膝を見ながら答えた。
「ごめん。朔のこと、考えてなかった。朔が転びやすいって、知ってたのに」
 そうですか。知っていましたか。有名ですか? と自嘲気味に思う。
 何で自分はこんなに転びやすいのだろう。
 はぁっとため息をつく。
「朔、ごめんね」
「ううん。ホントに大丈夫」
 歩けないほどじゃないし、と思って立ち上がる。
「それより宮下君、何で走り出したの?」
「え、あぁ。たぶん、誰かついてくるんだろうなって思って」
 へ? と後ろを振り返る。

 居たよ。
 うじゃうじゃと後ろに人がいる。
 女子生徒だけでなく男子生徒までもいる。
 なぜ居る!?
 朔は呆然と立ち尽くした。
 が、そんな暇もあまりなかった。

「宮下君、何あれ?」
「わかんない」
 わかんないってあんた。
「たぶん、僕らの後を付けようとしたんだと思うんだけど」
 ありえない。
 しかしそんなことに驚いてる暇はやはりない。
「宮下君、走ろう!」
「でも、朔。走ったらこけるんじゃ……」
「大丈夫! こけないように走る!」
 何が大丈夫で、何がこけないように走るんだろう。
 後で考えたら自分でそんなツッコミを入れたと思う。
 だけどそんなもんを気にしているわけにはいかなかった。

 奇跡的に朔がこけることはなかった。



 そして彼女らは何とか撒くことが出来た。



BACK TOP NEXT


Copyright(c) 2004 soki all rights reserved.
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送