後ろを向いても誰もいない。たぶん。
よかった、と朔は前を向く。
しかし。
「ここどこ?」
前の景色は見たことのない街並みだった。
「え? 朔、ここわからないの?」
うん、と朔は頷く。
その後すぐ、彼女は不安になった。
「もしかして、宮下君もわからないの?」
「いや、わかるよ」
わかりますか。
あっさりとした彼の答えに少し気が抜ける。
「朔、足は大丈夫?」
何度も訊く宮下に朔は少し苦笑する。
大丈夫だから気にしないでと答える。だいたいすぐ転ぶ自分が悪いのだしと朔は考える。
そう、と言った後、宮下は朔に訊く。
「ねえ、朔。もう少し歩くことになるんだけど、景色のいいところにいかないかい?」
「え?」
「ここじゃちょっと人目につくみたいだし」
周りを見ると、通る人通る人が宮下をちらちら見ている。
そうだね、と朔はいい、二人はまた歩き出した。
確かに景色のいいところだった。
町全体がよく見渡せる。
そんなに歩いていないはずなのにこんなところがあったとは。
朔が景色に見入っていると、宮下が尋ねた。
「きれいでしょ?」
「うん。こんなところがあるなんて知らなかったよ」
「実際、此処を知っている人は少ないみたいだよ。よく此処に来るけど、人を見かけたのは数回だから」
後ろに立っていた宮下が朔に並ぶ。
急に、真面目な声になった。
「朔」
少し驚き宮下の顔を見る。
表情も真面目な顔つきとなっていた。
美人な人は笑った顔もきれいだが、真顔も恐ろしいほど美しい。
朔はジッと見られて、眼をそらしたくなる。
宮下の言葉は続かない。
沈黙が何ともきまづい。
朔は自分から沈黙を破ることとした。
「ね、ねえ、何で私のこと呼び捨てにするの?」
とりあえず出てきた言葉は、まともだったので安心する。
ずっとひっかかっていたことだった。
彼がなぜ突然自分を呼び捨てにしたのか。
宮下は少し目を開き、すぐにああ、と微笑む。
「言おうとしていたことなんだ。恥ずかしいことなんだけどね、みんな僕と関わりたがらない」
「え?」
「話す前から僕に距離を置くんだ。もちろん、誰だってそんなんだろうけど異常に構えるんだ。
初めのうちは、それが普通だとも、気にし過ぎかとも思った。
だけどやっぱりみんな、僕に距離を置いて、遠くから見るだけなんだ」
宮下はそこで言葉を切る。
美人にもそんな悩みがあったとは。
そしてまた続ける。
「それが嫌で、どうにかしようと頑張ったときもある。だけど無理で。
最後には諦めた。しょうがないって。
でも、朔を見たとき」
「へ? 私?」
突然自分のことが出てきて朔は驚く。
宮下は、にっこりと特上の笑みを朔に向ける。
「朔を初めて見たとき、この子となら仲良くなれそうと思ったんだ」
宮下は一歩朔に近づく。
「仲良くなりたいって、思ったんだ」
更に一歩近づく。
二人の身体は触れるほど近い。
「ねえ、駄目かな?」
まるで子犬のような目で、まるで哀願するように彼は朔を見つめる。
こんな可愛い顔でそんなこと言われたら嫌って言えるわけがない。
彼女は心の中で叫ぶ。
だが思い出した。
友人 恵利の話を。
考えただけでもぞっとする。
引き受けるわけにはいかない。
朔は意を決して言う。
「ごめん。できれば私も、関わりたくない」
はっきりとした拒絶を表す言葉。
酷い言葉だが、背に腹はかえられぬ。
私だって自分がかわいいんだ、と必死に心の中で言い訳をする。
宮下は明らかに落胆した様子。
「……朔って、意外に優しくないんだね」
「うん」
意外かどうかはわからないが。
そう思いつつ、朔はほっとする。
恨み言を言われたほうが、罪悪感が少なくてすむ。
宮下は、そう、と言って下を向く。
だがしかしすぐに顔を上げる。
そしてまた、にっこりと笑った。
「でもね朔、僕も優しくないんだよ」
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