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5. 友人 花山恵利




 次の朝、教室に入った途端、宮下が駆け寄って抱きついてくるということはなかった。
 朔はとりあえず安心する。
 ああ、きっと何もなかったんだ。全て終わったんだ。
 何が終わったかどころか、何が始まっているのかもわからなかった朔だが、気にしなかった。
 ついでに、机に入れておいたプリントがぐちゃぐちゃにされ、ロッカーの中も荒らされていたようだが、あまり気にならなかった。
 この程度ならなんでもない。
 相変わらず突き刺さる視線も気にせず、朔は自分の席の椅子に座った。



「朔、起きて。次の授業、体育だよ」
 んあっ、と起きてみると、友人 恵利の姿がそこにあった。
 周りを見渡せば、何やら体操服を持って移動しているらしい。
 ああ、わたし、いつのまにやら古典の授業中に寝てたんだ。
 ぼーっとした頭でそう整理する。
「朔! 起きてー! 次、移動!」
「ふぁい」
 朔はあくびしながら返事し、体操服を持って、友人と一緒に教室を出た。
「朔、急いで! 早く着替えなきゃ! ほら、走れー!」
 あまりにもノロノロトロトロ動く朔に、友人が痺れを切らす。
 それもそのはず。あの女体育教師は遅刻に厳しい。
「うー、走るの無理……恵利、先に行って」
「え、ちょっと朔……?」
「わたし怒られ慣れてるから。恵利、早く行きなよ」
「そんなことに慣れないでよ……。朔、気分悪いの?」
「ううん」
 全くそんなことはない。
 ただ眠いだけ。
 だけど頭がふらふらする。走ったりなんかしたら、それがぐぁんぐぁんしてしまう。
 それでこけて、転がったらでもしたら、更に遅くなる。
 というわけで朔は痛くない遅刻のほうを選ぶ。
 友人を自分のせいに遅刻させるわけにはいかないしと付け加える。
 朔はもう、走る気など全くないとでもいうように、立ち止まる。
 友人はそんな彼女の様子を見て、あきらめる。
「朔……、遅刻してもちゃんと授業に出るのよ」
 うん、という朔の返事を聞き、恵利は走っていった。

 朔はやっぱり恵利は優しいと思った。

 まだ、朔と友人 恵利が仲良くなったばかりで、一緒に行動し始めてたとき。
 そのときにも今と同じような状態になった。
 もう遅刻する気満々で、走るつもりなど毛頭ない朔。
 遅刻してはいけないと、早く走らなきゃと思っていた友人 恵利。
 せかす恵利に、朔ははっきりと走る気はないと言った。
 すると恵利はあきらめ、朔と並んで歩いて、一緒に遅刻しようとした。
 朔はそんな恵利に、無理ににも合わせないでいいよ。走れば? と告げた。
 いつも団体行動をとろうとする女子が朔は苦手だった。
 昔から、無理してでも一緒にいないでいいよ、と相手に言うと、みんな怒ったり、泣いたりしてしまった。
 ただ恵利は違っていた。
 恵利は朔に無理に合わせないでいいよと言われると、驚き、哀しそうな顔になった。
 だが無理やり笑って、「うん、わかった。ごめんね」と言って、走っていった。
 傷つけてしまったと朔は思った。
 その後朔は、一時間授業をサボって、自分の、友人に対する行動や言動を考えた。
 恵利の心情も精一杯考えた。
 結論として、自分は説明が足りないのかもしれないとでた。
 そして恵利に、説明し、話した。
 決して自分の気持ちを説明するのが上手ではない朔の言葉を、恵利は一生懸命聴いてくれた。


 朔は、走り去っていった恵利の姿を見ながら、昔のことを思い出した。
 やっぱり恵利は優しい。
 朔はもう一度そう思い、自分も更衣室に向かおうと歩き出した。



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