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6. 一つのことしか考えられない頭




 更衣室に向かう。
 更衣室と運動場は離れてるからめんどくさいんだよなーと思いつつ朔は歩く。

 廊下の半分を過ぎたところで、何やら聞こえてきた。
 突き当たって曲がったところから。
 キャーキャーと、妙にかん高い声が必要以上に廊下に響く。
 うるさいなと思いつつ、向こうからやって来たのは、朔にとっては意外な人物だった。

 保険医 都崎。不機嫌面の男。

 しかし、今の都崎は、今まで朔が見た中で、最高の不機嫌面だった。
 一人背の高い都崎を、さも当然というように取り囲む女子生徒たち。

 そういやすっかり都崎の存在を忘れていた。

 朔は、そう思ったあと、いや別に都崎の存在なんて覚えている必要ないんだけどと、自分で自分に弁解する。
 でも宮下君が都崎と付き合えなんて言うから妙に意識してしまう。
 宮下を引っ張り出し、また朔は自分に自分を弁解する。
 朔は無性に引き返したくなった。
 違う道から、更衣室に行こう。
 と、いうことで、朔は後ろを向いて引き返そうとした。
 しかし後ろを向いたところで、何故か声をかけられた。
「園山」
 女子がこんな低い声を出すわけない。
 しかも朔はこの声を知っている。都崎だ。
 なぜ都崎が自分を呼ぶ?
 たぶん、聞き違いだ、無視しよう。
 歩き出すと、また呼び止められる。
「おい、園山」
 キャーキャー騒ぐ、女子生徒たちの声はもう聞こえない。
 都崎の声だけが聞こえる。
 聞こえないふりももう出来ない。
 朔は渋々振り返る。
 都崎が朔を見ていた。
「おまえが、園山 朔だな」
 確認するように、都崎は彼女に向かって言う。
 何がなんやらよくわからないが、朔はとりあえず頷くだけにする。

「そうか。じゃあ、園山、怪我をしないようにしろよ」

 そう言って、都崎は朔の頭に手を置き、しかしすぐに横を通り去っていった。

 大勢の女子が通れるように、朔は廊下の端によける。
 そのとき女子生徒たちがすごい目をして、朔を睨んでいた。
 しかし彼女はそんなこと気にしていられなかった。
 なんで都崎が自分の名前を知っているんだろう。
 ただそれだけだった。
 教師に名前を呼ばれた。
 そんな全くたいしたことないことなのに、朔は驚いて固まる。
 都崎に名前を呼ばれた。
 朔の頭の中はそのことでいっぱいだった。




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