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1. 恐怖心




 やはり少女マンガのようだ。
 放課後、人気のないところに連れ出されてしまった。
 当然、無理やりにだ。
 ここは、たぶん北校舎の裏。
「園山さん」
 七、八人の女子に囲まれている。
 その中の一人が朔に話しかける。
「その程度の顔で、宮下君と都崎先生に近づくなんて随分図々しいのね」
「自意識過剰なんじゃないの?」
 そう言って、女子生徒たちは嘲り笑う。
 内心、朔はくだらないと思う。
 くだらない。くだらない。くだらない。くだらない。
 黙っている朔に、痺れを切らすとでもいうように、突然、女子たちは声を荒げる。
「あんた! 聞いてんの!?」
「ブスのくせに近づいてんじゃねえよって言ってんだよ!」

 くだらない。くだらない。くだらない。くだらない。くだらない。

 朔はそう、言い聞かせた。
 必死に朔は自分に言い聞かす。

「ちょっと、いい加減にしなよ!」
「消えてくださいって言ってんの!」
 アホみたいな言葉。
 幼稚で空っぽ。

 なのにどうしてこんなに怖い!?

 朔は、怖かった。

 大勢の女に囲まれているだけ。
 前にもあった。いじめにあったこともある。
 だから慣れている。はずなのに。
 怖かった。
 ジッと固まって、震えているのを気づかれないようにするのが精一杯。
 心の中でくだらないと言うだけで精一杯。
 黙っているのは出す声が震えているかもしれないから。
「ムカつく!」
 女子生徒の一人が、朔の髪の毛を引っ張る。
 他の女子生徒が朔の肩を掴む。
「二度と男の前に出れない顔にしてあげようか」
 頬にパァンという、小気味の良い音が走る。
 何だか、やくざのセリフみたいだね。
 朔はそう悪態をつく。
 やはり心の中で言うのが、精一杯だった。


 だが、女子生徒の内の一人の言葉で、朔は恐怖心を忘れた。




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