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3. 恵利だけ




 体育館裏、体育館裏。
 体育館裏に急がなければ。
 恵利を、助けなければ!
 全速力で走る。
 だが、足がもつれて転んでしまった。
 派手に転び、思いっきり足も手も擦りむいた。
 だけど彼女はそんなのに構っている暇はなかった。
 早く、体育館裏に。
 朔は、すぐ立ち上がろうとした。
 だが。
 上から、誰かに押さえつけられる。
「逃げようたってそうはいかないんだから!」
 この声は、先ほど朔を取り囲んでいた女子生徒の声。
 わけのわからないことを、と思いつつ、朔は力いっぱい立ち上がろうとした。
「離して!」
「離すわけないだろ! バーカ!」
「後でいくらでも殴ってもいいから! 今は離して!」
 そう朔が声を上げると、一瞬女子生徒の力が怯んだ。 
 朔はその瞬間立ち上がり、走り出す。
 女子生徒は驚きながら転ぶ。
「あっ、待て!」
 待つわけがない。
 とにかく、速く恵利のところに。
 もう少しで、体育館だ。
 急げ!
 急がないと……!
 体育館裏に着いた。
 恵利は? 恵利はどこに……!?
 見つけた。
 五、六人立っている女子生徒のなかに、一人だけ座っている生徒。
 恵利だ。
 泣いている!?
「恵利!」
 朔は、恵利の許へ走った。
 さっきまで走るたびに傷口が痛んだ。
 今は、とても感じない。
 怒りしか、感じなかった。


「恵利!」
 恵利に近づこうとしたとき、誰かが朔の身体を押さえる。
 誰?
 恵利を取り囲んでいた女子生徒たちだった。
「なんで園山が此処にいるの!? 助けに来たとか? ばっかみたい!」
 さっきの女子生徒たちと同じように嘲り笑う。
 だが今の朔にとってその笑い声は、所詮気づかなかった者から発したどうでもいいものだった。
 気にするのは恵利だけ。
 後はどうでもいい。
「園山、結構派手にやられてんじゃん。痛そー!」
 さっき叩かれて赤くなった朔の頬を指で弾く。
 一瞬、痛みが走った。だけどどうでもいい。
「離して」
 気づかなかった者にやっと目をむけ、朔は睨む。
「何睨んでんだよ!」
 また頬に痛みが走る。
 今度は平手打ちされたようだ。
「朔!」
 恵利の声が聞こえる。
 恵利は、無事なのか?


 何とか恵利のところへ行こうと、力を振り絞ったとき、

 急に体が軽くなった。




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