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5. 無表情




 放課後だからそこまで人はいないはずだけど、ぞろぞろとまるで行進のようなものは目立つ。
 朔は都崎に担がれ、その横に恵利が、そしてその後ろに取り囲んでいた女子生徒たち。
 やはり目立つ。
 何となく居心地が悪かったが、やっと保健室に着いたので朔はホッとした。
 やはりぞろぞろとみんな保健室に入る。
 全員が入り終わったところで、ガラリと保健室の扉が開いた。

 入ってきたのは宮下だった。

「朔!」
 宮下はすぐさま朔に近づく。
「朔、ひどい怪我……どうして、僕のせい……?」
 朔は宮下に訊かれても、何も考えられなかった。
 今日は、いや最近はいろんなことがありすぎた。
 都崎とは事故があったし、宮下には……あまり口に出したくない。
 その上、宮下に呼び捨てにされたというだけで、大勢の注目を引いた。
 そして今日、連れ出され叩かれ、自分のせいで恵利までもがひどい目にあった。
 それまで、何もない平々凡々な生活を送っていた朔は疲れてしまった。
 宮下君のせいなのだろうか?
 朔は心配そうな宮下の顔を見ながら、ぼんやりとそう思った。
「み、宮下君、あの、私たち……」
「君たちがやったの?」
 怯えた顔して見る女子生徒たちを、宮下は睨む。
「ご、ごめんなさい! でも……!」
「だって、園山さんが……!」
「宮下君に無理やり近づいて……!」
 次々に声を上げる女子生徒たちに宮下が何か言おうとした。
 それより先に都崎が叱る。
「うるさい。怪我していない者は保健室から出てけ」
 すぐには動かなかったものも、みんなしぶしぶといったように保健室から出て行った。
 すると保健室に残った者は、都崎と朔だけだった。
 あれだけ居たのに怪我をしたのは自分だけだったのかと、少し朔はショックを受ける。
 もちろん誰かに怪我して欲しかったわけではないが、自分の怪我をする度合いに改めて朔はため息を吐く。
 都崎は朔の前に座り、黙々と作業をする。
 頬にシップを貼り、膝の傷口を洗って、消毒する。
 手当ての間、二人は何も話さない。
 都崎はもともと寡黙な人だし、傷ついた生徒を励ますなどということをする人ではない。
 朔も沈黙が苦手という人間ではないし、くたびれておりとても会話するような気にはならなかった。
 そのかわりずっと都崎の顔を見ていた。
 頬の手当てをするときも、都崎はずっと怪我を見ていたので、朔と目が合うことはなかった。
 都崎は不機嫌面、というよりずっと無表情だった。
 何の表情も浮かばない都崎の顔はきれいだが、人間味があまりなかった。
 冷酷という印象を与えそうな都崎の顔を、朔は何も思わず見ていた。



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