一瞬、しゃがみこんだ都崎と目が合った。
朔はまるで我に返ったとでもいうように、はっとした。
何で、都崎と二人っきり。ずっと二人っきりだったのか。
そう思うとパニくってきた。
朔の足に、都崎の冷たい指があたる。
擦りむいた膝を手当てするためだが、朔はとても吃驚してしまった。
肩を、体中をビクンとさせ、思わず椅子から落ちてしまった。
幸い、前にいる都崎のほうではなく、横に落ちたからよかったと朔は思った。
「おまえは、何をしているんだ?」
突然、椅子から落ちた朔を都崎は睨みつける。
普通に椅子に座っていて、どうやったらそこから落ちることができるのかとでもいうように。
「すみません」
横に倒れている朔は、急いで立ち上がろうとする。
すると都崎から手を差し伸べられた。
朔は驚き、その手を取ろうかどうか迷った。
もしかしたら、何かくれといっているのかも。
朔は動かないままだった。
ちらりと都崎の顔を見ると、どんどん眉間にしわがよってくるのがわかる。
手をとってもらっていいのかな。
朔はおそるおそる都崎の手に触れる。
都崎の手はやはり冷たかった。
ぐいっと引かれ、朔は立たされる。
何かくれといっているんじゃなくてよかった、そう安堵しながらまた椅子に座った。
都崎と目が合った瞬間、正気に戻ったような気がした。
ずっとボーっとしていた。何も考えられなかった。
それが突然、朔の頭は動き始めた。
そういえばまだ、お礼を言っていなかった。
「都崎先生、助けてくださってありがとうございました。それに手当てもありがとうございます」
「仕事だ」
あっさりと終わる会話。なぜか都崎との沈黙はきまづい。
「あ、あの、どうして、わたしがあそこにいるってわかったんですか?」
体育館裏など偶然通りかかるようなところじゃない。
「おまえが女子生徒に追いかけられているところを見た」
恵利のところに走ったときかな。
また会話が終わってしまった。
もう話題がない。
朔はしゃがんでいる都崎のつむじを見る。
さっきまで無表情だった都崎の顔は、まだ眉間にしわがよったままなのだろうか。
いかにも冷たい人ですという感じの都崎の顔。
表情が冷たいのか雰囲気が冷たいのか区別が出来ない。
いやどっちもなのかもしれない。
だけど時々優しくなる、
気がする。
そうか、気がするだけか。気のせいだ。
一人で納得する。
けれど都崎は怪我をするなと言ってくれた。
そして頭に手を置いた。
そのことを思い出すと朔は、顔が熱くなるのを感じた。
なぜだろう。そんなこと、朔にはわからなかった。
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