BACK TOP NEXT


6. 冷たい手と熱い頬




 一瞬、しゃがみこんだ都崎と目が合った。
 朔はまるで我に返ったとでもいうように、はっとした。
 何で、都崎と二人っきり。ずっと二人っきりだったのか。
 そう思うとパニくってきた。
 朔の足に、都崎の冷たい指があたる。
 擦りむいた膝を手当てするためだが、朔はとても吃驚してしまった。
 肩を、体中をビクンとさせ、思わず椅子から落ちてしまった。
 幸い、前にいる都崎のほうではなく、横に落ちたからよかったと朔は思った。
「おまえは、何をしているんだ?」
 突然、椅子から落ちた朔を都崎は睨みつける。
 普通に椅子に座っていて、どうやったらそこから落ちることができるのかとでもいうように。
「すみません」
 横に倒れている朔は、急いで立ち上がろうとする。
 すると都崎から手を差し伸べられた。
 朔は驚き、その手を取ろうかどうか迷った。
 もしかしたら、何かくれといっているのかも。
 朔は動かないままだった。
 ちらりと都崎の顔を見ると、どんどん眉間にしわがよってくるのがわかる。
 手をとってもらっていいのかな。
 朔はおそるおそる都崎の手に触れる。
 都崎の手はやはり冷たかった。
 ぐいっと引かれ、朔は立たされる。
 何かくれといっているんじゃなくてよかった、そう安堵しながらまた椅子に座った。

 都崎と目が合った瞬間、正気に戻ったような気がした。
 ずっとボーっとしていた。何も考えられなかった。
 それが突然、朔の頭は動き始めた。
 そういえばまだ、お礼を言っていなかった。
「都崎先生、助けてくださってありがとうございました。それに手当てもありがとうございます」
「仕事だ」
 あっさりと終わる会話。なぜか都崎との沈黙はきまづい。
「あ、あの、どうして、わたしがあそこにいるってわかったんですか?」
 体育館裏など偶然通りかかるようなところじゃない。
「おまえが女子生徒に追いかけられているところを見た」
 恵利のところに走ったときかな。
 また会話が終わってしまった。
 もう話題がない。

 朔はしゃがんでいる都崎のつむじを見る。
 さっきまで無表情だった都崎の顔は、まだ眉間にしわがよったままなのだろうか。
 いかにも冷たい人ですという感じの都崎の顔。
 表情が冷たいのか雰囲気が冷たいのか区別が出来ない。
 いやどっちもなのかもしれない。
 だけど時々優しくなる、
 気がする。
 そうか、気がするだけか。気のせいだ。
 一人で納得する。
 けれど都崎は怪我をするなと言ってくれた。
 そして頭に手を置いた。
 そのことを思い出すと朔は、顔が熱くなるのを感じた。
 なぜだろう。そんなこと、朔にはわからなかった。




BACK TOP NEXT


Copyright(c) 2004 soki all rights reserved.
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送