恵利と都崎の乗った車を見送りながら、朔はまだ心配していた。
いやしかし、都崎を信用しよう。
だがもしも恵利に何かあったら許さない。
信用しているのかどうかわからないことを思いながら、もう見えなくなった都崎の車を睨んだ。
「朔、僕たちも帰ろう」
少し後ろから声が聞こえる。宮下だ。
「宮下君、やっぱり送ってもらうのは悪いからいいよ」
彼は朔の言葉に眉を寄せる。
「送る」
ちょっと怒りのこもった声。
朔は宮下に送ってもらうことにした。
「ありがとう」
そう言うと宮下は、少し困ったように微笑んだ。
宮下は何も話さない。
朔も何も話さない。
彼女は恵利の心配ばかりしていた。
帰ったらすぐ電話をしよう。
そう考えつつ、朔はずっと黙っている宮下の顔を窺う。
一瞬、背筋が寒くなった。
宮下の顔には何の表情も浮かんでいない。
初めて見る、宮下の無表情。
その冷たい表情は、都崎の無表情と少しかぶった。
朔は、慌てて宮下から目を逸らした。
結局、朔の家に着くまで二人は何も話さなかった。
最後に朔はお礼を言う。
「宮下君、ありがとう」
宮下は俯いていた。
だがゆっくりと顔を上げる。
朔はその宮下の表情に驚いた。
泣きそうな、哀しそうな顔。
いつかの子犬のような目とは違う、先ほどの無表情の冷たさを微塵も感じられない、情けない表情だった。
「朔」
震える声で宮下は呼ぶ。
朔は、そんな宮下を不思議に思いながら、心配になった。
どうしたんだろう。
朔が心配そうな顔をすると、
宮下はにっこりと微笑んだ。
いつかと同じ。
そうだ。
宮下君が、僕も優しくないんだと言ったときと同じ表情だ。
「バイバイ、園山さん」
その氷のような冷たい笑顔に、哀しさを覚えた。
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