朔はしまったと思いながら、跳ね起きた。
昨日、恵利に電話掛けるのを忘れてた。
都崎はちゃんと恵利を送り届けてくれただろうか。
何の連絡も来ないということは、恵利は無事なのだろう。
そう自分を落ち着かせる。
それにしても、かけ忘れるなんて、宮下君のせいだ。
朔はそう思いながら、昨日の宮下を思い出す。
いや、宮下のあの冷たい笑顔をだ。
今日の学校が、どうなるのやら。
朔は不安になりつつ、学校に行く支度をした。
しかし、彼女の不安は取り越し苦労となった。
「なーんか、今日の学校、おかしかったなー」
放課後。
今、朔と恵利は一緒に帰っている途中だ。
朔は、今日一日のことを思い返す。
確かにオカシなことばかりだった。
いつもなら、朝教室に入った瞬間、敵意の目を向けられる。
刺し殺せそうな視線から、蔑むような視線まで。
それがなかった。
誰も朔に目を向けない。
席に座った途端、さりげなく朔に向かってや少し離れたところから集団で悪口をグチグチ言ってくる。
それもなかった。
みんな、朔などそこに居ないように接していた。
置き忘れたノートやプリントはグチャグチャにされ、ロッカーの中は荒らされる。
それもなかった。
むしろ、荒らされているロッカーはめんどうなのでほっといたのだが、それが今日、きれいに整頓されていた。
ありえない。
そう恵利に話すと、彼女は笑った。
「何言ってるの、朔。おかしいだなんてそれが当たり前じゃない」
「当たり前?」
「だってそうでしょ。そんなことがあったのって二、三日ぐらいよ。この昨日と一昨日がおかしかったのよ」
確かに、そうだ。
それにしても、あれからまだそれだけしか経っていないのか。とても疲れた気がする。
それでも。
「昨日、あんなことがあったばかりだよ? それが突然終わるのかな」
「いいじゃない、普通に戻ったってことで」
「でもロッカーが誰かに整頓されてたって普通なのかな? 荒らしはしても、きれいにはしないでしょ、普通」
突然、恵利が立ち止まった。
「朔! その話はもういいじゃない!」
声を上げる恵利に驚く朔。
「ご、ごめん……」
そうだ。恵利は昨日怖い目にあったばかりなのだ。
それなのに自分ったら、嫌な話をダラダラして……。
視線を向けられない、悪口を言われない。とても結構なことじゃないか。
ロッカーがきれいに整頓されていた。世の中にはとても親切な人がいるものだ。素直に感謝しようじゃないか。
「私こそ、大きな声出してごめん」
「ううん。そうだよね、これが普通なんだよね」
朔は自分の足元を見る。
今日、都崎と廊下ですれ違った。
都崎は朔のほうを少しも見ず去って行った。
昨日バイバイと言った宮下は、今日一度も朔に声をかけなかった。
それどころか朔を見ることすらなかった。
二、三日より前だったらこれが普通。
当たり前のことだ。
確かにこれは、元の日常に戻っただけだった。
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