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10. やっぱり保健室には行きたくない




 チャイムの音と同時に朔は転んだ。
「朔……」
 恵利が呆れたように見る。
 心配して欲しいわけじゃないが、そんな目で見られると悲しい。
 今日は遅刻ギリギリだったので、朔も珍しく、恵利と一緒に教室まで走ろうとしていた。
 が、朔は途中で転んだ。
 今度は左足を擦りむく。しかも少し足首を捻ってしまったようだ。
 朔は急いで立ち上がり、
「こけてる場合じゃない! 早く教室に行かなきゃ!」
 とまた走り出した。
「ちょっと待ちなさい!」
 走り出した朔の腕を恵利が掴む。
「恵利、何? もうチャイム鳴っちゃったけど早く教室に急がなきゃ」
「そうじゃないでしょ。朔は保健室」
 朔は眉をひそめる。
 保健室には行きたくない。
「別にたいした怪我じゃないよ。それより教室に……」
「駄目! 血が出てるでしょ! 別に都崎先生はもう嫌じゃないでしょ。だから保健室に行きなさい」
「やだ」
 朔は強引に教室まで歩こうとした。
 しかし恵利の腕がそうさせてくれない。
 離して、と言おうとして朔が恵利のほうを振り向くと、恵利はとても悲しそうな顔をしていた。
「え、恵利、何でそんな顔してるの?」
「どうして保健室に行ってくれないの? 消毒しなかったらばい菌が入って大変なことになるかもしれないでしょ?」
 朔は恵利の悲しそうな顔に非常に弱い。
 眉間を寄せながらも、「わかった」と渋々頷く。
「よかった。じゃあさっさと行っちゃいなさい」
 と、さっきまでの悲しそうな顔はどこへやら。
 恵利はすぐ笑顔となり、バイバイと言って、教室のほうへ向かっていった。

 園山朔、友人 花山恵利が少しわからなくなった瞬間である。

 恵利と別れた後も、まだ朔は保健室に行こうか迷っていた。
 正直、とても行きたくない。
 もちろん理由は都崎にある。
 朔はこの前の休日のことを思い出す。
 都崎が、きれいな女の人と歩いていたのを見た日。
 あれから都崎の顔を見ていなかった。
 朔は、都崎と顔を合わせるのが嫌だった。
 行きたくない、でも行かなくちゃ。
 朔はふらふらと真っ直ぐ歩かず、重い足取りで都崎のいる保健室に向かった。




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