行きたくない。でも行かなきゃ。だけど行きたくない。
朔は行きたくないと行かなきゃを繰り返しながら、重い足を保健室へと向けて動かす。
そうしているうちに保健室のドアが見えてきた。
外から入れるドア。
初めて都崎のいる保健室に入るときも、このドアからだった。
今日、そのドアは開いていた。
中から声が聞こえる。
都崎が独り言を言っているのか、と朔は考えたが、聞こえてくる声は都崎の声とは全然違うことにすぐ気づいた。
女子生徒がまだ保健室にいるのだ。
嫌だな、と思いつつ、さっさと消毒を終わらせようと、ドアへ向かった。
「都崎先生! 昨日街を一緒に歩いた女性は誰なんですか!?」
張り上げられる大声。
朔はピタリと足を止めた。
「おまえには、関係ないだろう。チャイムはもう鳴っている。さっさと教室帰れ」
「嫌です! 都崎先生が答えてくれるまでここを動きません!」
最初の声とはまた違う高い声が聞こえる。
何人かの女子生徒が保健室に押しかけているらしい。
そして、都崎に昨日の女の人について聞いている。
都崎は、答えるだろうか?
朔は、そこから進むことも戻ることも忘れて、じっと立っていた。
「あの女性は、都崎先生の恋人なんですか!?」
世界から音が消えた気がした。
朔の耳には、もう都崎の答えしか聞こえない。
「……ああ。彼女は俺の恋人だ。言ったんだから、さっさと帰れ」
女子生徒の泣く声とバタバタと去っていく足音が遠くで聞こえる気がした。
昨日の女の人は都崎の恋人。
そうか。
都崎に恋人がいたんだ。
朔は、呆然と立ち尽くす。
眼すら動かない朔の瞳の中に、突然都崎が映った。
何で、都崎が……ああ、開いているドアを閉めに来たんだ。
誰だよ、ドアを開けっ放しにしたのは。
朔は顔も知らない人を恨む。
そんな余裕はあっても、全身は動かない。
「そこにいるのは、園山か? また怪我をしたのか」
都崎は眉間にしわを寄せる。
うるさい。ほっとけ。仏頂面め。
朔は都崎に悪態をつく。
「おい、早く入れ」
嫌だ。
保健室なんかに入りたくない。
都崎はさらに眉を寄せながら、朔に近づく。
そして彼女の腕をつかんで、強引に連れていこうとする。
「離してッ!」
朔は都崎の腕を振り払う。
「園山?」
都崎が不思議そうに朔の顔を見る。
朔は都崎を睨みつける。
そして来た道を走り出す。
都崎なんて大嫌いだ。
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