朔はまた転ぶ。
何で朝っぱらから二回もこけないといけないんだと何かを恨む。
都崎のせいだ、きっと。
彼女はたった今都崎から逃げてきた。
保健室からも教室からもだいぶ離れたとこまで走った。
足首を捻っていたので、走るのはとても痛かったが、頑張った。
何を、頑張ったんだろう……。
朔は突然走り出した自分に呆れた。
「………また転んだのか」
頭上から声がする。
この声は、都崎。
「何で、都崎先生がここに……」
「いきなり走り出したおまえを追いかけたからだ」
そして差し出される都崎の手。
冷たい都崎の手を思い出す。
「大丈夫です」
朔は自分で立ち上がる。
ひとりで、立てる。
そう思って朔は、昔見ていた教育テレビを思い出した。
なんていう番組だったかなー。
そんなこと考えていたら油断してしまった。
捻っていた足首のせいでバランスを崩す。
「うぎゃっ」
奇声をあげながら倒れそうになる朔を支えたのは、都崎だった。
「ありがとう……ございます……」
小さい声で不満そうにお礼を言う彼女に、都崎は何も言わなかった。
朔は恥ずかしいと思いながら、居心地の悪さを感じた。
保健室に向かう朔と都崎は微妙な距離を保ちつつ、歩いている。
当然二人の間に会話はない。
朔は左斜め前を歩く都崎を見る。
怒っているだろうか?
彼女はさっきまでのことを思い返す。
腕を掴む都崎の手を無理やり振り払い「離して」と叫んで逃げた。
転んだ自分を追いかけてきてくれた都崎が差しのべてくれた手を拒否した。
よろけてまた転びそうになったところを支えてくれた都崎に、まるで不満でもあるように礼を言った。
謝らなくては。
しかも都崎はさっきから、足を怪我した朔を気づかって、歩調を合わせてくれている。たぶん。
朔は意をけっして、口を開く。
「都崎先生」
保険医は少しも反応しない。聞こえていないようだ。
朔は小走りで、都崎の横に並ぶ。
「都崎先生」
もう一度呼ぶと、都崎は何も言わず、視線だけ朔に向ける。
「都崎先生、さっきは、すみませんでした。それから……」
ありがとうございましたと言おうとして、朔は口を閉じる。その後「何でもないです」と付け足す。
素直にお礼を言えない自分に腹が立った。
都崎は「そうか」とだけ言って、前を向く。
朔は喋ってくれた都崎に、ほっとして、少し嬉しくなった。
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