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「なんで宮下君はあんただけ特別扱いするのよ……!」

 宮下君がわたしを特別扱いするんじゃない。
 この人たちが宮下君を特別扱い≠キるのだ。
 そう叫びたかったが、自分にそんな資格などないことを朔は知っていた。
 いや、そう気づいた。




3. 気づいたこと −前編−


 朔がそう気づかさせられる状況になったのは今より少し前。
 昼休憩、食堂で朔は天ぷらうどんを、恵利は日替わり定職を食べているときだった。

 突然、朔たちを取り囲むように女子生徒たちが座る。
 朔の右隣にはチャーハンを、左隣にはカレーライスを乗せたお盆を持った女子生徒が座る。
 恵利の両隣にも同様、ヤキソバを乗せている子とラーメンを乗せている子が座った。
 朔はため息をつく。
 せっかく元の日常≠ノ戻ったのに、まだめんどうなことが起こるのか。
 それでも朔はどうにか避けたいので、女子生徒たちが隣に座っても、何事もなかったようにうどんを食べ続ける。
「あんた、宮下君に何をしたの?」
 左隣に座っているカレーライスの子があからさまに蔑むよう朔に訊く。
 朔は無視して天ぷらうどんを食べ続ける。
「ちょっと答えなさいよ!」
 右隣のチャーハンの子が声を荒げる。
 それでも朔は無視してうどんを箸ですくおうとした。
 するとカレーライスとチャーハンの見事な連携プレイにより、朔の箸と天ぷらうどんは取り上げられた。
 右隣から手が伸び箸を取られ、左隣からも手が伸び、天ぷらうどんを取られたのだ。
「なっ……、私のうどん、返して」
 朔はうんざりしながら、天ぷらうどんを取ったカレーライスを睨む。
 カレーライスは「返して欲しいなら質問に答えなさい。宮下君に何をしたの?」と横柄に言う。
 朔は仕方なく「何もしていない」と言った。
「ふざけないでよ! ちゃんと答えて!」
 恵利の右隣に座っているヤキソバが叫ぶ。
 ふざけているつもりなどない。そっちこそちゃんとうどん返せ。
 そう言いたかったが、カレーライスにうどんの中身を床に捨てられそうだったので何とか自分を抑えた。
「ふざけていない。わたしは何もしてない」
「嘘つかないで! あなたが何もしてないって言うなら、何で宮下君はあんなに怒ったのよ!」
 宮下君が怒った? 何のことだ?
 顔を真っ赤にしながら怒鳴るラーメンを見ながら朔は眉をひそめる。
「あんたが宮下君にあることないこと吹き込んだんでしょう!? 最低!」
「私たちがどんなに惨めな思いをしたかわかる!? 私たちは本気で宮下君が好きなのよ!」
 何だかよくわからないことを女子生徒たちは次々とヒステリックに叫んでいく。
 朔はどうすることもできず、というよりしようとせず、冷めていく天ぷらうどんの心配ばかりしていた。
 女子生徒たちは最後に、
「何とか言ったらどうなのよ!」
 と、言った。
 だから朔は訊いた。
「宮下君が怒ったって、何のこと?」
 さっきから女子生徒たちは「宮下が怒った」ということに怒っている。
 何の事情も知らない朔はそのことが気になって訊いたのに、女子生徒たちはまた「とぼけないで!」やら「しばらっくれるんじゃないよ!」とか、時代劇に似合いそうな言葉を言っていく。
 いい加減うるさい。
 そして女子生徒たちの叫びは、段々朔の悪口大会となっていく。
「ブスのくせに宮下君に近づくなんて図々しいんだよ!」
「そんな十人並みどころか百人並な顔しちゃってさ」
「しかもさっきから無表情できもいんだよ!」
 全て前に聞いたことがある言葉。
 悪口のバリエーションというものは少ないのかと朔は考えたが、多くても困るか、と思った。




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