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6. 薄暗い部屋の中に




「宮下君」
 午後の授業が始まるギリギリの時間だった。
 教室にはほとんど人はいない。
 五時間目は移動教室だからだ。
 だけど朔はそんなことを気にする余裕がなかった。とにかく宮下と話さなくてはいけないと思った。
 しかし宮下は朔を無視して教科書を持って、席から離れる。
「宮下君!」
 朔は去ろうとする宮下の肩を掴む。
「離してくれる?」
 そう冷たい表情で言う宮下。
 思わず手を肩から離した。
 怖かった。
 宮下の表情も、宮下に嫌われているかもしれないということも。
 彼はさっさと教室を出た。



 教室に残された朔は固まっていた。
 どうしればいいのかわからない。
 そのとき、恵利が教室に入ってきた。
 二人以外もう教室には誰もいない。
「どうしたの、朔?」
 心配そうに声をかける恵利。
 思わず朔は笑った。
「何でもないよ」
 そうだ、宮下と話をしようと思ったのだ。
 どうすればいいかなんて考えている暇はない。
 恵利が応援してくれたのだ。怖いことなど何もない。
「行ってくるね」
 朔がそう言うと恵利は微笑んだ。
 宮下君と、話をしよう。



「宮下君!」
 化学教室に向かっている宮下を廊下で見つけた。
 朔は彼まで走り、また肩に手をかける。
「触らないでくれる? 離して」
 さっきよりも冷たい宮下の言葉。
 だが朔は怯まなかった。
「嫌!」
 そう言い、宮下の腕をがっしり掴み、引っ張る。
 宮下が抗議の声を上げる前に、朔は目の前にあったふるぼけた扉を開けて宮下を無理やりその物置部屋にいれる。
 自分も入り、中から鍵をかけた。
 窓から差し込むわずかな光しかない、薄暗い中、二人きりとなった。




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