「どういうつもり?」
少し暗い中でも眉を寄せる宮下の顔はよく見えた。
「話をしようと思って」
朔は意外と冷静だった。
まっすぐ宮下を見る。
「話すことなんてないよ」
「わたしはあるの」
きっぱりと言う朔に、宮下は少しため息をつく。
「……話って、何?」
朔は、口を開く。
しかし言葉が出なかった。
何を話せばいいかわからない。
宮下と話そう、話そうと思うばかりで、話す内容まで考えていたなかった。
しまった! と気づいたが、遅かった。
朔の沈黙が続く。
宮下も黙って朔の話を聞こうとする。
朔はますます慌てる。
「……話って何?」
宮下はもう一度訊く。
朔は、更に慌て、えぇっと、とか言いながら、宮下に訊いた。
「宮下君とわたしは友達ですか?」
宮下が目を見開く。
朔は、そうだ、このことを話したかったんだと、心の中で頷く。
宮下は口を開く。
「……わからない」
「わからないって?」
「僕は、友達が何かわからないから」
同性までもが特別扱い≠キる、その綺麗な顔を朔は見る。
宮下に近づく男子は、ごく少数は彼を恨み、その他大勢は宮下に憧れ、敬語を使い、一歩下がっている。
確かに、それぐらいのことをやってのけそうなぐらい宮下の顔は綺麗だ。
だが、面の顔一枚でそこまでされる宮下はどんな気持ちなのだろう。
「じゃあ、宮下君とわたしは友達。決まり!」
「違うよ」
さっさと友達ということにして決めてしまう朔に、宮下はきっぱり否定した。
「何が違うのさ」
「僕と園山さんは友達じゃないよ」
「友達だよ」
根拠など何もなく朔は自信を持って言う。
宮下は、弱弱しく呟いた。
「朔」
突然雰囲気の変わる宮下に驚く朔。
いつか見せた、情けなさそうな顔をしている。
さっきまでの冷たい表情がどこにもない。
「朔、聞いて。昨日、朔があんなにひどい目にあったのは、僕のせいなんだ。僕は、人に近づいちゃいけないんだ。そんなことすると、その人は傷つけられる」
「だからもう近づかないって言ったの?」
「朔のためを思ってじゃ、ないんだよ。僕のせいで傷つけられる朔を見るのが嫌で、言ったんだ。前にも言ったように、僕は、優しくない」
わたしだって優しくないんだ。そうすると結構気が合うんじゃないだろうか。
宮下の真剣な表情と違い、朔は結構能天気に考えていた。
「優しくないどころかひどい奴で、朔が友達だと言ってくれたとき、そんなふうになったら、たぶん朔がまたひどい目に遭うって頭の中でわかっていたのに、嬉しかったんだ」
「へ?」
「朔と友達って聞いたとき、嬉しかったんだ」
朔は宮下に抱きついた。
宮下君は嬉しかった? ならばきっと友達だ。
朔も友達とは何かよくわかっていなかった。
だけど友達だと思ったら友達なんだ。
「宮下君、握手、握手」
抱きついて宮下をやっと開放し、朔は手を差し出す。
宮下は抱きつかれたときから固まっており、突然握手と言われてもどうすればいいかわからなかった。
そんな宮下の手を朔は無理やりとり、ぶんぶん上下に振る。
「あはははは、友達だねぇー」
笑い出して「友達」だと言い、握手してぶんぶん振る朔。
あまりにも突然で、わからない行動。
宮下は混乱していたが、だんだん抑えがきかなくなり、嬉しくて笑った。
それは滅多に見られない、心からの笑顔だった。
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