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7. 二人は友達




「どういうつもり?」
 少し暗い中でも眉を寄せる宮下の顔はよく見えた。
「話をしようと思って」
 朔は意外と冷静だった。
 まっすぐ宮下を見る。
「話すことなんてないよ」
「わたしはあるの」
 きっぱりと言う朔に、宮下は少しため息をつく。
「……話って、何?」
 朔は、口を開く。
 しかし言葉が出なかった。
 何を話せばいいかわからない。
 宮下と話そう、話そうと思うばかりで、話す内容まで考えていたなかった。
 しまった! と気づいたが、遅かった。
 朔の沈黙が続く。
 宮下も黙って朔の話を聞こうとする。
 朔はますます慌てる。
「……話って何?」
 宮下はもう一度訊く。
 朔は、更に慌て、えぇっと、とか言いながら、宮下に訊いた。
「宮下君とわたしは友達ですか?」
 宮下が目を見開く。
 朔は、そうだ、このことを話したかったんだと、心の中で頷く。
 宮下は口を開く。
「……わからない」
「わからないって?」
「僕は、友達が何かわからないから」
 同性までもが特別扱い≠キる、その綺麗な顔を朔は見る。
 宮下に近づく男子は、ごく少数は彼を恨み、その他大勢は宮下に憧れ、敬語を使い、一歩下がっている。
 確かに、それぐらいのことをやってのけそうなぐらい宮下の顔は綺麗だ。
 だが、面の顔一枚でそこまでされる宮下はどんな気持ちなのだろう。
「じゃあ、宮下君とわたしは友達。決まり!」
「違うよ」
 さっさと友達ということにして決めてしまう朔に、宮下はきっぱり否定した。
「何が違うのさ」
「僕と園山さんは友達じゃないよ」
「友達だよ」
 根拠など何もなく朔は自信を持って言う。
 宮下は、弱弱しく呟いた。
「朔」
 突然雰囲気の変わる宮下に驚く朔。
 いつか見せた、情けなさそうな顔をしている。
 さっきまでの冷たい表情がどこにもない。
「朔、聞いて。昨日、朔があんなにひどい目にあったのは、僕のせいなんだ。僕は、人に近づいちゃいけないんだ。そんなことすると、その人は傷つけられる」
「だからもう近づかないって言ったの?」
「朔のためを思ってじゃ、ないんだよ。僕のせいで傷つけられる朔を見るのが嫌で、言ったんだ。前にも言ったように、僕は、優しくない」
 わたしだって優しくないんだ。そうすると結構気が合うんじゃないだろうか。
 宮下の真剣な表情と違い、朔は結構能天気に考えていた。
「優しくないどころかひどい奴で、朔が友達だと言ってくれたとき、そんなふうになったら、たぶん朔がまたひどい目に遭うって頭の中でわかっていたのに、嬉しかったんだ」
「へ?」
「朔と友達って聞いたとき、嬉しかったんだ」
 朔は宮下に抱きついた。
 宮下君は嬉しかった? ならばきっと友達だ。
 朔も友達とは何かよくわかっていなかった。
 だけど友達だと思ったら友達なんだ。
「宮下君、握手、握手」
 抱きついて宮下をやっと開放し、朔は手を差し出す。
 宮下は抱きつかれたときから固まっており、突然握手と言われてもどうすればいいかわからなかった。
 そんな宮下の手を朔は無理やりとり、ぶんぶん上下に振る。
「あはははは、友達だねぇー」
 笑い出して「友達」だと言い、握手してぶんぶん振る朔。
 あまりにも突然で、わからない行動。
 宮下は混乱していたが、だんだん抑えがきかなくなり、嬉しくて笑った。
 それは滅多に見られない、心からの笑顔だった。




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