ドシャッという音がする。
お決まりの体育の時間にお決まりの音だ。
しかし、今回はお決まりの人物ではなかった。
今こけたのは園山朔ではなく花山恵利であった。
「恵利! 大丈夫!?」
いつも掛けられる言葉を朔は言う。
掛けるほうであるはずの恵利は、大丈夫と言って、起き上がる。
擦りむけている上、捻ったらしい。立ち上がるのも大変なようだ。
「園山、またこけたのか……ん? 今転んだのは花山か?」
どうせ転んだのは朔だろうと決め付けていた女体育教師は意外な顔をする。
「はい」と恵利は返事をした。
「足を捻ったようだな。園山、保健室まで一緒に着いて行きなさい」
朔は言われなくともというように、恵利に肩を貸す。
「どっちにしろ園山は保健室に行くことになるのだろうからな」という嫌味な女教師の言葉を無視し、二人は保健室に向かった。
保健室のドアを開ける。
朔の顔を見た瞬間、都崎はあからさまに眉をひそめる。
「また園山か」
「違います」
間髪いれず朔は言う。
都崎は恵利のほうを見て、彼女の膝から血が出ているのを確認する。
勘違いされるのも当然なほど朔はよく怪我をするのだが、都崎は「悪かった」と謝り、恵利を椅子に座らす。
恵利の怪我をてきぱきと処置していく都崎を見ながら、朔はそういえば都崎と恋人のキスシーンを見たんだと思い出す。
しかし都崎を見ても特に何も思うわけでもない。
驚きで目に焼きついたと思われるあの場面も、おぼろげにしか思い出せない。
やはり都崎のことなどどうでもいいのだと朔は安心する。
恵利の手当てが終わった頃、また保健室のドアが開く。
朔の嫌な予感どおり、現れたのは雪人だった。
「どうした?」
また現れる保健室の訪問者に、都崎はため息交じりで訊ねる。
雪人は笑って答える。
「昨日、腹を殴られたんです」
何を言うんだ! と朔は驚きながらも、動けず黙って成り行きを見ることしか出来なかった。
「殴られた?」と都崎は眉を寄せ、雪人は「ほら」と言ってシャツをめくる。
雪人の腹にはくっきりと、昨日朔に殴られた痕が残っていた。
「ふむ。見事なボディブローだな」
「でしょう」
真面目な顔して見事だと褒める都崎と、なぜか誇らしげにしている雪人に腹を立てる朔はさっさと保健室から出ようとする。
「恵利、行こう」
友人の手を引く朔を雪人が呼び止める。
「あ。待って、朔」
朔は眉間に皺をつくり、雪人を見る。
雪人はそんな朔を気にするようでなく、にっこりと笑う。
「朔は遊園地好き?」
また雪人からの突拍子もない質問。
答えないほうがよさそうだと判断する朔は黙ったまま。
しかしかわりに恵利が答えてしまった。
「遊園地好きよね、朔。絶叫系大好きって言ってたし」
「そうなの? よかった!」
雪人はとても嬉しそうに笑う。
嫌な予感がする。
願わくばはずれていますように……!
朔の祈りは、やはり無駄に終わってしまう。
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