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3. 本人の前では




「園山、さっきから焦点が合ってないように思えるが、やはり体調をくずしているのか?」
 パチンとはじかれたように朔は我に返る。
 都崎がこちらを見ている。
 切れ長の瞳と目が合うが、まるで写真を見ているかのようでうろたえも、目を逸らすこともしない。
 じっとみつめかえす。
 不機嫌面なのにきれいな顔。いや、きれいな顔なのに不機嫌面といったほうが正しいのかもしれない。
「おい、園山」
 と、怪訝そうに都崎は声をかけるが、朔はまだ目を逸らそうとも答えようともせず、都崎について失礼なことを考え続ける。
 笑った顔を見たことがない。都崎という男は、今まで一度でも笑ったことがあるのかといいたいほどいつも無表情で不機嫌面だ。
 少しその笑った顔を見てみたいものだが、大笑いしているところは避けたい。
 声を上げ、腹を押さえて笑ったり、愛想よくニコニコ笑う都崎……気味が悪いな。
「朔ー。都崎先生みたいに眉間に皺がよって怖い顔になってるよ?」
「あらほんとだわ。だめよ、蓮冶みたいになっちゃ」
「おまえら……。園山、どこかで休むか?」
 三人がこっち見ている。なんでだ?
 朔は後ろを向く。特に変わったものはない。
 前も向きなおし朔は口を開く。
「何か、あったんですか?」
「何がだ」
「いや、こっち見てるんで後ろに何かあるのかなぁって」
 なぜか都崎の顔が怖い。
「朔が険しい顔していたから、どうしたのかなって思ってたんだよ」
 険しい顔してたのかな? ああ、きっと愛想のいい都崎を想像していたときだろう、と朔は考え、口を開く。
「ごめん。ちょっと恐ろしいこと考えてて」
 少し笑いつつ、どんなことかしら? と玲子さんに訊かれたが、まあちょっとと誤魔化した。本人の前では言えません。
「体調は、悪くないんだな?」
 都崎の顔の怖さが少し減っている。
 そういえば、最初にも訊かれた気がする。そして結局それには答えなかった気がする。
 朔は慌てながら悪くないですと言った。

「そろそろ別れましょうか」
 玲子さんはそういい、都崎と腕を組む。
「そうですね。じゃあまた、お昼に」
 そう言って雪人は朔の手を取り、開いている手を玲子さんと都崎に向けて振る。
 玲子さんも手をふり、朔は少し頭を下げお辞儀のようなものをする。
 無愛想な男ときれいでかわいらしい女の人は仲良さげに腕を組んだまま去っていった。
 後には朔と雪人が残される。
「僕たちも行こうか」
 と言って、雪人は手をひっぱる。
 朔はうなずいた後、口を開く。
「何で手つないでるの?」
「だめ?」
 心配そうな顔をする雪人。
「いや、だめじゃないけど」
「よかった」
 にっこり笑って雪人はまた手を引く。
 うん、だめじゃないんだけど、と朔は心の中で呟く。でも周りの視線が痛いです。
 美少女な友達を持つとこんな苦労があるんだねと誰になく呟く。
 何か言った? と雪人は振り返るが、なんでもないよとやっぱり誤魔化した。もちろん本人の前では言えません。

「朔」
 と呼び、どれから乗ろうかと、楽しそうに雪人は訊ねる。
 ジェットコースターと朔は答えた。
「えっ、いきなり!?」
「最初にジェットコースターって普通じゃないの?」
「普通じゃない…わけじゃないと思うけど……うん。じゃあ乗ろうか。まずあの小さいほうからいく?」
 雪人が指したほうを見る。ジェットコースターは真っ赤に塗られ、前にはかわいらしい顔がついている。ある意味とても気味が悪いが。
「雪人……あれはジェットコースターとは呼べないよ。むこうの大きい方行こう」
 朔が指したほうには、乗っている女性がキャーと叫び一回転したり、岩の中につっこんだりしているジェットコースターが見える。
 彼女にとっては、小さいお子様用のジェットコースターはデパートの屋上にあるような“汽車”だそうだ。
「えぇっ! あれに乗るの!?」
「……雪人怖いの?」
「ま、まさか! そんなわけないじゃん! さあ、行こう!」
 そう言って雪人は手をひっぱる。
 妙にその手に力が入っていたことに朔は気付いたが、まあ大丈夫だろうとそれ以上心配はしなかった。




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