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5. 明かされた秘密?




 観覧車には結構人が並んでいた。
 この遊園地の観覧車はとても大きい。
 日本一とはいかなくとも、大きさでいえば十番以内には入るんだぜ、と前の人たちが話していた。それを朔は聞いていた。
 盗み聞きしようとしているわけではない。しかし前の人たちが必要以上に大きな声で話すのと、雪人がずっと黙ったままでいるというため、自然とその話が耳に入る。
 雪人は、観覧車に並んでから一言も喋っていない。
 朔が不思議に思い、じっと見ていて彼と目が合うと、雪人はにっこり笑う。だが、口を開こうとはしない。
 何か、ずっと考えているようだ。何かとは、雪人のいう“話したいこと”についてなのだろうかと朔は思ったが、それ以上考えるのは止めた。
 どうせ観覧車に乗ったらされる話なのだし、何より嫌な予感がする。
 ちらりと雪人のほうを見ると、彼は相変わらず悩んでいる顔のままだった。


 観覧車の話から、今お昼を食べると混んでいるからもっとずらしてからにしようという話にかわっていた、前に並んでいた人たちが観覧車に乗り込む。
「次だね」
 久しぶりに雪人が口を開いた。朔は頷く。
 彼女は観覧車に乗るときいつも考える。観覧車のゴンドラに乗り損ねたらどうするのだろう。そしてきっとどうすることもできないのだろうなと結論付ける。
 二人とも無事に同じゴンドラに乗れた。
 中は広かった。
 二人は向かい合って座り、ゴンドラは少し揺れる。
 朔はゴンドラの外に目をやる。
 しかし雪人は少しも外に目を向けようとせず、朔に向かって言った。
「朔、話したいことがあるって言ったよね」
 朔は目線を雪人に戻す。彼は続ける。
「あのね、話したいことというのは、前に訊かれた何で朔に都崎先生と付き合ってって言った理由なんだ」
 彼女は、少し前のことを思い出す。そういえば、確かメールでそんなことを訊いたことがある。
 何だ、そのことについてかと、朔は少し安心する。これまでのように、もっと心臓が跳びはねるようなことを言われるのかと思っていた。
 心持ち、肩に入れてた力を緩めて、朔は雪人の話を聞く体勢になる。
 安心している朔と比べて、雪人は少し緊張していた。
 まだ言おうか言わまいか迷っているような彼に、朔は聞いた。
「そんなに言いにくいことなの?」
 困ったように雪人は笑う。
「うー…ん、言いにくいというか恥ずかしい気もするけど、それより、朔が怒りそうで……」
 怒り出すような理由とはなんだろうか。余計に気になる。
 それに朔には根拠のない自信があった。
「大丈夫大丈夫。怒らないって」
「ほんとに?」
 朔は根拠のない自信を口にする。
「うん。何か今は何言われても怒らない気がする。まあさすがに、雪人が玲子さんのことを好きで、恋人の都崎先生が邪魔だからーなんていう理由だったら怒るけどね」
 あははと、雪人は笑う。
 朔は催促するように口を開く。
「で、理由は何なの?」

 そして、雪人は無言で笑ったままだった。


 ……………え?

 ま、まさか今のが本当に理由なんてことはない、はずだ。
 もちろん冗談のつもりで言ってみたが、雪人はやはり笑ったまま。
 まさか……あまりにも信じがたいけど、
「雪人、ほんとじゃないよね? じょ、冗談よね? 冗談だと言って!」
「冗談って、言ったら怒らない?」
「うん。冗談って言ったら怒らないけど、言ってもそれがほんとのことなら怒る」
 雪人は黙ったままだ。
「雪人……」
「朔、怒った?」
 肯定だという態度をとられ、朔の怒りは爆発する。
「当たり前じゃー! 怒ったわ! 雪人! どういうことよ!? 説明しろ!」
「いやー、見事なまでに朔が言い当ててくれたから、これ以上説明のしようがって、さ、朔、首絞めないで、く、苦しい……。ゴンドラがすっごく揺れて」
 グラングラン揺れるゴンドラ。落ちそうだ。
「そんなのどうでもいい! わたしは揺れてる観覧車のほうが好きなの!」
 しかしさすがに、首絞めはどうでもいいことなく、朔は手を離す。
「朔、意外に凶暴なんだねって、わぁ! うそうそ! ごめん! 冗談冗談!」
 朔は恐ろしく揺れるゴンドラの中で冷静になる。
 まず、雪人の首を絞める前に頭の中整理しなきゃ。
「つ、つまり、雪人は玲子さんのことが好きだったけど、そこにひょっこり都崎が現れた。それで、邪魔だから都崎に誰かをけしかけようとした。そういうこと?」
「うん、そういうことだね」
 平然と雪人は言う。そしてまだ続けた。
「ただ、僕が先に会ったのは、玲子さんじゃなくて都崎先生だけどね」

 朔は、後悔する。
 わざわざ整理しなくても、あのままゴンドラを揺らし続けていた方がよかったのではないかと。
 それほどまで、朔は驚いた。
 “イヤな予感”とは、一体どっちのことを指していたのだろうか。
 別に聞いて嫌なことだったわけではない。
 それでもやはり、衝撃だった。
 雪人は何でもないことのように続ける。


「僕と都崎先生は兄弟なんだ」




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