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6. どうなるかなんてわからない




 一ヵ月後のことなど、誰もわからない。
 けど、一ヵ月後に自分の日常が崩れていると考えてる人はいないんじゃないだろうか。少なくとも朔はそうだった。
 朔は今の状態が異常だといわないにしても、普通であるとは思わない。
 もともと交際範囲の狭い自分だ。一ヵ月後の今日、自分は何をしているかと一ヶ月前の朔に訊いてみても、せいぜい「家で寝ている」か「恵利と遊んでいる」ぐらいしか答えないだろう。だが今朔は呼び出しをくらうほど人気のある宮下雪人と、新しい無愛想な保健医 都崎蓮冶とその恋人 三原玲子と遊園地に来て、一緒に昼ごはんを食べている。玲子さんなど一生出会わなかったかもしれないのに不思議なものだ。


 朔の日常を変えたのは雪人。
 その雪人を動かしたのは都崎が雪人に訊ねた
『園山 朔を知ってるか』
 その一言だったそうだ。
 めったに人の名前を覚えない都崎がなぜ朔を知っているのか興味をもったそうだ。そしてその朔と都崎が事故だったが保健室でキスしたのを見て、雪人は朔に付き合ってと言ったらしい。
 朔はいくら昔のことを思い返しても都崎のことは思い出せない。というか知らない。

 人の出会いは不思議だ。
 もし都崎が朔の名前を出さなかったら、雪人と友達になることも、四人で遊園地に来ることも、雪人と都崎が兄弟であることを知ることもなかった。
 そして、都崎を好きになることも。
 朔は、自覚せざるえない。気づけばついつい都崎を見てしまい、目が合えば慌てて逸らす。都崎と玲子さんが一緒にいるところを見ると胸が痛むし、都崎が玲子さんを見たり、話しているのを見るのも嫌だ。今、都崎が隣に座っているというだけで緊張している。
 緊張も度をすぎれば、どこか冷静になる自分がいる。驚きすぎると、逆に事実を見据える自分がいる。
 そんな自分に呆れる。

 まったく、

「なんてこったの佐ノ助てやんでぇ」

 思わず口に出してからはっと気づく。
 おそるおそる三人を見てみれば、皆こちらを見ている。
「朔、なんか今おもしろいこと言った?」
 と雪人。
「ええ、なんか聞こえたわ」
 と玲子さん。
「確か、佐ノ助がどうとか」
 と、都崎は余計なこと言わないでいい!
 近くにいたから一番聞き取れたらしい。
「な、なんでもない、なんでもないです! 独り言です!」
「ふむ。ユニークな独り言だな」
 ……悪かったな。朔は顔を赤くしながら、開き直る。
「ふふっ。おもしろい子ね」
 玲子さんは嫌味なく笑う。やっぱりきれいな人だ。
 雪人は、何も言わない。
 さっきからこうだ。四人の中で主に雪人と玲子さんが喋っているのだが、都崎が話すと雪人は黙る。意識してやってるのかわからないが、朔はそれに気付いた。たぶん玲子さんも気付いている。都崎は、よくわからない。気付いているとしても気にしてないようだ。



「ねえ、雪人って都崎先生のこと嫌いなの?」

 おそろしく無遠慮に、こんな失礼なことを朔が雪人に訊いたのは、日が傾いてきて、最後に乗るアトラクションに選んだ、観覧車の中だった。




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