わからなかった。
あまりにも単純な理由。呆れるほど安易な行動。
自分の好きな人を手に入れたいがため、己のことだけ考え、他人を無理やり巻き込み、協力という名の利用をはかろうとした。
雪人がやったことは子ども染みた愚劣で、ある意味滑稽なことだった。
その、巻き込まれた朔は、全て明らかになった、幼稚な彼に、くだらないと一言吐き捨てることができる。
だが彼女はまだわからないままだった。
雪人自身が。
わけのわからぬ行動の意味がわかったので雪人は謎とは程遠い人となった。はずなのだが以前とかわらず、むしろさらに雪人は朔にとって得体の知れない人となった。
いや、人ではないという錯覚をも起こす。
彼が笑顔を見せたところで、本当に楽しんでいるかわからず、おもしろがるのは皮肉ではないのかと疑り、完璧な笑顔でそこにいる人が、本当に存在しているということさえ確信できない。
ひとでなければ彼はばけものか。
そしてまさに、今の雪人はその完璧な笑顔でいる。
『ねえ、雪人って都崎先生のこと嫌いなの?』
何がわからないのか言葉にすることも難しい雪人に対し、唯一明確に表せれる疑問を訊いた。そして雪人は笑った。
彼は、自分の兄に対してははっきりとした態度をとった。
あまりに露骨すぎて、演技なのかと思うほどに。
雪人は口を開く。
「僕が都崎先生のこと嫌いかって?」
怒ることもなく雪人は聞き返す。飽くまで、感情を表す数多くの言葉を打ち消すことしかできず、選びとることは不可能である。
そしてそれは表面的にしかわからない。
雪人は顎に手を当て、考えているポーズをとる。
「そうだな、嫌いかなんて、わからない≠ネ」
この言葉が雪人のものでないことに、朔は気付いた。
それは同じ質問を雪人にされたときの、朔の答え。
彼女は少し唇を噛む。
「何で、都崎先生が嫌いなの?」
子どもっぽく返す皮肉を肯定と受け取って朔はまた質問をする。
いつかのメールのときと違い、彼に訊きたいことはまだある。
雪人はますます、笑う。
「じゃあ何で朔は都崎先生が好きなの?」
朔は答えない。
血液型とは違い、わからないのだ。
そして雪人もそれを知っている。
雪人は自分の笑みを消し、真顔となる。
「嫉妬だよ」
そしてようやく彼女の質問に答えた。
朔が少し泣きそうなっているのもわかったからだ。
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