祝日は好きだ。何だか得した気分になる。
また恵利に映画に行かないかと誘われた。
お昼は映画館の中で食べようと十二時半に待ち合わせ。
だが。
間違えて十一時半に待ち合わせ場所に来てしまった。
一時間も余裕がある。
どうしようかと悩んでいたところ、携帯に電話が掛かってきた。
「はい。もしもし」
『朔、ごめん! 急な用事で遊びに行けなくなっちゃった!』
「え……」
「ごめん! ほんとーにごめん!」
「いや、別にいいよ。んじゃ」
パタンと携帯を閉じる。
何だか、一時間も待ち合わせ時間に早くついてしまった自分がまぬけに思える。
とりあえずふうと息をはく。
さて、どうしたものか。
一人で映画を見るのは嫌だし、家に帰るにしても微妙な時間。
かといって行きたいところはないし、用事もない。
改めて周りを見渡す。
確かここは前に都崎と三原玲子さんが一緒に歩いていたのを見た場所だ。
うーむと考え、朔は結局家に帰ることにした。
一歩踏み出したところ、例によって朔は転んだ。何もないところで。
ジーパンをはいていたので擦りむいていない。
朔はほとんど無感情に立ち上がろうとした。
スッと手を差しのべられた。
白く、長い指。
そして爪にはピンク色のマニュキュア。
顔を上げると、そこには三原玲子さんが。
「大丈夫?」
優しげに微笑む玲子さんはきれいだった。
朔は、突然玲子さんが現れたせいか、彼女の美しさのせいか、全く動かない。
「朔さん? 大丈夫?」
もう一度声をかけられた朔はハッと我に返る。
「は、はい。大丈夫です」
朔は都崎の恋人に手をとってもらうことなく立ち上がった。
「まさか今日朔さんと会うとは思っていなかったわ。これからお友達と遊びにいくの?」
「え、あぁ、はい。そうです。そうなんです……って! 違います! 違うんです!」
力いっぱい否定する朔に、玲子は驚く。
朔からしては、ついつい返事をしてしまったものの、そういえば中止になったことを思い出して、慌てて否定しただけだった。
目の前のきれいな女性には、故意でなくても一つの嘘もついてはいけない気がしたのだった。
一方玲子は、いっぱいいっぱいになりながら、友達が急用で来れなくなった説明する朔に、微笑みかけていた。
「朔さん」
なぜか身振り手振りで、恵利の髪型まで説明している朔は、彼女の声を聞き、ぴたりと止まる。
「朔さん。これから何もないのなら、私と一緒にお昼食べないかしら」
朔は恵利の髪型を表す両手を下げるのも忘れて、ただ頷くことしかできなかった。
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