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6. 心配なんだよ




 そ、相談って何のこと?

 一応とぼけてみたが、雪人の笑顔は崩れない。
「朔、花山さんと喧嘩したんでしょ?」
「何で知って……」
「見たらすぐわかるよ」
 見ないでください。
 そう思ったが、もう遅い。

 どうしようか。
 どうすれば誤魔化せるだろう。

 考えるが、思いつかない。
 というか雪人がだんだん近づいてきて怖い。
 上体を少しずつ後ろに反らすが、机に座っているままだと無理がある。あまりにも反らすとまたこけそうだ。
「何でそんなに怖がってるの?」
「だって、雪人が近づいてきて……」
「なら、何で何も話そうとしないの? 僕が信用ならない?」
 いつもの笑みである。
 可愛くて奇麗で、でもそれは表面上で、内心何を考えているのか全く検討つかない。怒っているのか楽しんでいるのかすらもわからない。どちらでもないようで、どちらにも見える。
 それが雪人だ。
「べ、別に信用ならないってわけじゃ……」
「じゃあ話してくれてもいいじゃん」
 そ、それは……そうなのか?
 なんか雪人に押されて、うまく頭がまわらない。
 とりあえず近づきすぎだ。
 離れてくれ。
 そう言ったら雪人は、困ったように笑いながら離れた。
 朔は深呼吸をして、口を開く。
「何でそんなに話を聞きたがるの? 雪人に相談っていう言葉は似合わ」
 最後まで言えなかった。
 もう遅いかもしれないが、迂闊なことを言わないほうがいい。
「フフ。最後の言葉は聞かなかったことにするよ。何で話を聞きたがるかだっけ? それはもちろんおもしろそうだからだよ」
「絶対言わない」
「嫌だなぁ、嘘だよ、嘘。朔が心配だからだよ」
 それこそ嘘だ。
 朔は直感した。
 訝しむ朔に、雪人は安心させるよう優しく微笑みかけるが、逆効果でしかない。
 そのことを知りながらも、わざとやっているのではないかと朔は考えてしまう。
「と、とにかく心配されることは何もないし、サボりはいけないことだし、わたしはそろそろ授業に戻ろう」
 かな、が言えなかった。
 机をおりて、部屋から出て行こうとする朔の腕を雪人が引っ張る。
 突然雪人の顔が近くになった。
 本当に近い。
 瞬きをしたら睫毛が触れるんじゃないかと思うほどに。
 朔は当然美少女の顔がドアップになって、慌てる。
 離れようと思うのだが、華奢な雪人の腕からは想像できぬ力の強さで後ろに引けない。
 雪人の表情には、先ほど浮かんでいた笑みはなくなっていた。
 少し眉を寄せ、でもそれは怒りの表情でなく、心配している顔だ。
「ねえ朔……」
「あ、あの離し」
「朔。僕、本当に心配してるんだよ。ほんとだよ? お願い、信じて……」

 わかった! 信じるから、離れて!

 そう言おうにも口が動かない。
 頷こうにも、今この距離で首を振ると、頭突きしてしまうだろう。
 どうしよう、とパニック状態になりかけたとき、腕にかかっていた力がなくなった。
 朔は急いで離れる。
「だめ? 信用できない?」
 雪人は目を潤ませながら首をかしげる。
 ここまでくると絶対に演技だ。それはわかる。当然気づく。
 だが。
 気づいたとしても、朔とて、目の前の可愛さには逆らえなかった。それほどまで、雪人は可愛かった。
 パワーアップしてやがる。
 そう思いながらも、朔は頷いた。
「わかった。……信用、しているよ」
 途端に雪人は笑顔になる。
 まるで幼い子どものようにくるくる表情が変わる。
「よかった。嬉しいなぁ」
 本当に嬉しそうに笑う雪人。

 もしこれが演技だとしたらコイツは人間じゃない。

 そう思わせるような、明るい、無邪気な笑顔だった。




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