つまりは相談することになったのだ。
しかし朔は納得がいかなく、不満をブツブツもらす。
「あんなに可愛い顔するなんて……。姑息な手段を使いやがって」
「え? 何のこと?」
笑う雪人に朔はなんでもないと答える。
自分は雪人のことを信用していないわけではない。そう朔は思う。
だが、相談するとなると……何とも言えぬ。
雪人に相談という言葉は似合わない。
あのとてもつもなく奇麗な顔が、自分の悩みを聞いて、真剣になる。
掴みどころのないような、わけのわからぬ性格の雪人が、何か的確なアドバイスをくれる。
……想像つかない。
第一、どうやって相談すればいいのかもわからない。
恵利のことを雪人に話す。
まるで、知らない人のトレーナーを勝手に着るような、そんな、居心地の悪さ。
それにこれは、きっと自分で何とかすることだ。
朔はまだそう思う。
しかし、彼女がどう思おうと、相談することになってしまった。
何を話せばいいのかわからない。何となく、話すことになったのが、雪人に負けた気がした。
素直になれない。
それこそ、負け惜しみ≠ェ口から出た。
「そんなに可愛い子光線出してたら、いつか襲われるよ」
少し沈黙が流れる。
雪人に笑顔が貼りついた。
「……誰が可愛い子光線出したって? 可愛いっていうのやめてくれる?」
思いっきり、出していたくせに。
まさか無意識でやっていたとは思えない。
だとしたら天性の美少女だ。
「それに、ストーカーにさらわれるかもよ。雪人は俺のものだって」
「俺のって……僕は男だ!」
「男? 雪人が?」
何を言っているのとでもいうように雪人を見る。いささかやりすぎなように思えるが、朔のひん曲がった性格からすると、これぐらいは言うのかもしれない。
雪人は睨む。しかし彼女には何の効果もないことがわかると、プイと顔をそむけてしまった。
「すぐそうやって、みんな僕のこと女扱いするんだから……玲子さんだって……」
「玲子さんにも女の子扱いされちゃったの? かわいそうに」
「うるさいよ! それより朔が悩んでたんでしょ。花山さんに嫌われて」
恵利に嫌われて――その言葉を聞いた途端、朔はガクンと肩を落とす。先ほどの意地悪い元気は微塵も感じられない。
雪人はそんな朔を見て謝った。
「ごめん、朔。言い過ぎた……というか元々その話をするはずだったんだけど……ごめんね」
「う、ううん。こっちこそ……雪人が女顔で可愛いっていうこと気にしているのに本当のこと言っちゃってごめん」
わざと言っているのか本気で言っているのかよくわからない。どっちにしろ腹立たしいことには変わらないだろう。
しかし雪人は笑顔を作った。
「全然気にしてないよ。女顔のことだって。ほら、僕男だし」
男だし、というところが強調されていた。
朔は少し下を向く。
情けなくなる。
自分は最近、他人に迷惑をかけ、傷つけてばかりいる。
最近、という言葉はおかしいのかもしれない。昔から傷つけていたが気づかなかっただけ、十分考えられる。
突然、自己嫌悪に陥っていく朔を、不思議に思いながら雪人は言った。
「朔、花山さんと仲直りしたいんでしょう? ほらほら早く話してごらん」
雪人は机の上に座り、隣にある机のホコリを払って、コンコンとそれを叩いた。そこに座れといっているのだ。
途中、こけそうになりながらも朔はそこに正座した。
二人は向き合うように座っているが、彼女の顔はうつむいている。まるで親に説教されている子どものようだ。
「とゆーかさ、話してごらんとか言っておきながらなんだけど、仲直りしたいんなら謝ればいいんじゃないの?」
「謝りにいったんだけど……根性なしで謝らずに帰ってきました」
「……本当に根性なしだね」
はい、と朔は小さく答える。さっきとはうってかわってえらい素直だ。
不気味なほどに。
朔はそれ以上何も言わない。
反撃がないので、少々拍子抜けな雪人だが、会話を続けるよう努めた。
「えーっと、それじゃあ……何が原因で喧嘩したの?」
「わたしが、ため息ばかりついて、何も話さないで、恵利にえらそうなことばかり言って、傷つけて、泣かせて、ムカつくこと言って、謝れない」
要因を簡潔にいったつもりだが、当然雪人には通じない。
黙りこんで考える彼に、朔はわかった? と訊いたが、雪人は首を横に振った。
「もうちょっと詳しく話せない?」
「……わたしが、いつもため息ばかりついて、恵利にどうしたのって訊かれても、何でもないって答えて、自分のことは話さずに恵利のことを聞いたら口出しして、傷つけて、泣かせて、卑屈になって、ムカつかせて、根性なしで謝れずに帰ってきた」
もっと詳しくはだめ? と雪人は聞いたが、朔はうんと答えた。
相談された経験はないに等しく、かつ情報はどちらかというと曖昧でどうアドバイスすればいいか雪人にはわからない。彼は困ってしまった。
少し考え、雪人は訊いた。
「それ以上話せないのは、相談相手が僕だから?」
雪人の顔は、不思議そうでも悲しそうでもなかった。
笑っていた。
いつもの笑顔だ。
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